これは「消費者行動」講義中に提示した素材を元にしたものです。若干の変更を加えています。ここにある以外の説明をしていますので注意してください。
          (香川大学経済学部 堀 啓造)

第16回1999年6月15日 counter: (1998/8/25から)
最終更新日:
9章 消費者の動機づけ(と感情)(その2)
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1節 動機づけとは何か
2節 動機づけの内容理論
  1 欲求階層説(マズロー)(以上 前回)
  2 HM理論      (こっから今回)
  3 反転理論
  4 電通のニーズ
  5 ベネフィット
  6 消費者の欲求に訴える
3節 ブランド選択モデルと動機づけ
    →葛藤のタイプ
4節 消費者の動機を探る
    研究法


 HM理論と購買動機

必要条件−消費者に安心を与える要因
魅力条件−この必要条件が満たされた上で,消費者をより引きつけるための要因

@ブランド テキストの例

Aネーミング
小嶋外弘(1972)『新・消費者心理の研究』日本生産性本部

電気洗濯機で三洋電機がトップメーカーだった。知名度もサンヨーの「ママトップ」が高かった。脱水機付き洗濯機への買い換えが本格化しはじめた時期に「うず潮」(ナショナル)と「銀河」(東芝)などが市場に食い込んできた。三洋電機もこれに対抗して新製品を出すことにした。これまでと同じ「ママトップ」をつかうかどうか?
 有力量販店の店頭での観察。洗濯機を買いに来た消費者が「うず潮をくれ」「銀河が欲しい」という指名買いがかなりなるのに,「ママトップを」という指名買いが一件もなかった。
 すでに「ママトップ」という名前は魅力要因がなくなって,必要要因でしかなかった。三洋電機の決断は新しいネーミングをした。「琵琶湖」。

B製品ライフサイクルとHM要因。
電気冷蔵庫
「電気で冷やす」「いつでも一定の温度に冷えている」→「自動霜取り」「フリーザー」

秋庭雅夫・圓川隆夫(1986)『消費者からみた耐久消費財の製品評価』日刊工業新聞社

p107
製品評価の重点移行ルール

基本機能    安全保全性
経済性   =>保守性  =>操作性
(弊害機能)

   =>設置性=>嗜好性=>付加機能

(1)基本機能から付随的な機能である製品の特徴に移行
(2)製品の機能というよりも生活空間における"もの"として価値に重点が移行
(3)やがて新しい製品概念が定着するとともに
(4)再び基本機能に重点が移る。

製品評価の重点の推移図

クーラーの例(少し書き換えている)
(a)クーラーが出だしたころは,その[基本機能]である冷却能力に関心が集まった。

(b)そして,ウインドタイプによる振動,騒音などの[弊害機能]も関係して,セパレートタイプがでされた。

(c)一応,これらが満足されると,消費電力などの[経済性]が問題となった。

(d)次には,空気や吸い取った際のごみの処理方式[保守性]や,高いところに取り付けたクーラーのON,OFF,あるいは水準の切り換えなどの操作が離れたところからできるリモートコントロールの方式など[操作性]が考えられた。

(e)そして,壁型も,しだいに薄いタイプが出てきて,クーラーを取り付ける台をはりだす必要がなくなるなど,[設置性]が考えられた。

(f)今までの定型化されたクーラーの形,色から踏み出して,家具や部屋の様子にうまく適合する形とか色彩のクーラーが出てきて,[嗜好性]が考えられた。

(g)冷やすという基本機能に対して,それだけでなく,同じ[基本機能]で,暖めるという複合機能が考えられてきた。それが一般化して,[付加機能]ではなく,「エアーコンディショナー」として,[基本機能]と認められる製品となった。

(h)さらに,インバータ方式などによる[基本機能]の強化と,そのための省エネタイプという[経済性]の向上が進められた。

Q.最近のものとして携帯電話について考えてみよ。
例えば次のようなサイトなどを参考に。
携帯、7つのキーワード(1/3)
http://www.zdnet.co.jp/mobile/0209/11/n_newtech.html


 反転理論(reversal theory)

M.J. Apter 1989 Reversal theory; Motivation,Emotion and Personality. Routledge

Apter の訳本としては
M.J. アプター『デンジャラス・エッジ −「危険」の心理学 』講談社(1995)がある.

反転理論の出発点は人々が自分の動機を経験するいろんな在り方の分析であった。この分析は動機づけ、感情、パーソナリティの統合理論へと発展していった。これらの分野の基本仮定に挑戦した。

1970年代中頃 K.C.P.SmithとM.J.Apterが基本的考え提起した。
Apterが体系的理論に発展させた。
発展しつつある話題:スポーツとゲーム、宗教経験、教育、創造性
理論的係わり:自我と同一性、学習理論、進化論的生物学

《今世紀前半の動機理論》(反転理論からの批判)
常に、生体は1つもしくは複数の動機変数をできるだけ低くしようとする。

例1.動因低減説(Hull)…生体の目的は動因を低水準に維持することとみなす。この水準をこえるときはいつも動因を低減させるのに必要な行動をとる。

例2.比較行動学(Lorenzなど)…生体は行動に特殊なエネルギーが形成されるとそれを解放する方法を見つけようともがいている。

しかし,興奮つまり動因を下げようとするよりも上げようとすることがあるという事実に気がついた。代表的研究:単調な環境(感覚遮断実験のような環境)はリラックスよりも退屈を生じさせる。
→好奇動因、探索動因を仮定する。(最初の反応)
→最適覚醒(最適水準)の考え。(Hebb,1955)(こちらのほうがよい)

低いというよりも中間の覚醒水準が好まれる。
低も高も極端な水準はさけられる。
あるときは覚醒を増大し、あるときは覚醒を減少させる。

BUT 性的興奮のように不快と同程度の覚醒がおこり、快である現象がある。
生活には興奮度が高い活動例がたくさんある。
スリラー映画、登山などの危険な活動、ローラーコースター、ギャンブル

快で高覚醒状態(休暇に外国にいく、スリラーの緊張場面を読む、均衡しているときに重要なゲームをする、絶頂に達しそうになる)
快で低覚醒状態(眠りにはいる直前、風呂に入る、きつい仕事の後リラックスする、おいしい食事をした直後)
などにより最適覚醒の考えは疑問。

註)最適水準(adaptation level)の考えは,Helson,H. のもののほうが有名で,普通はこちらに言及している。この場合は,最適覚醒ではなく,最適刺激量である。最適刺激量は覚醒のようにいくら多くてもいいということにはならない。
 Apterの覚醒から攻めることの利点は,モードの移行をうまく処理できる点である。確かに最適刺激では説明できない,最適水準が移動することを処理できている。その点を利用しながらも,実際の応用では最適刺激量を考える方が実践的であろう。刺激量は外部と内部を連結する考えに対して,覚醒と快だと内部同士の結びつけになっている。
Helson,H.(1959) Adaptation level theory. in S.Koch(eds.) Psychology: a study of a science.(Vol.1) McGraw-Hill.


《反転理論》
いくつかの動機変数には、異なる環境と異なる時間において、生体が逆戻りするような1つ以上の好みの水準がある。
特に、当該のそれぞれの次元の端または端の方向に2つの好みの水準があって、一方が他方に置き変わるとき、その度ごとに、生体の意図の方向に劇的な切り替えがある。
→2極安定の原則

 反転理論の図

動機づけとメタ動機づけを区別する
→統制と調整の区別 多くの動機づけ理論は調整のみの理論である。
つまり、他の理論では
 生体が何を望むかを同じにしておいて(統制場面)、それを得るのにどの程度うまくやるか(調整)がいろんな環境下で変化する。

 生体が、ある基本点において、何を望むかも変化し、メタ動機モードの間で反転が起こると劇的にそれは変わる。
 望んでいるものを得た瞬間に、全く別の両立不可能なものを欲していることが分かることがある。ディスコにいったとたんに、静寂。田舎にいったとたんに刺激。
 幸福のままいる、楽しい喜びのままでいることは、予測不可能な風の中でコースを維持しているようなものである。
 興奮を求めるときと、弛緩を求めるときは時間によって変化している。
 どちらを多く求めるか個人によってちがっている。(色の好み)


手段と目的の経験
目的指向のとき(telic mode) と活動指向のとき(paratelic mode)がある。
目的指向…目的が手段を正当化する。未来指向 目標達成の快は未来にある,覚醒回避モード

活動指向…手段が目的を正当化する。現在指向、今ここでの快,覚醒探究モード
義務のないとき

目的活動図


《反転理論から見た感情》

感情の相互関係に焦点を当てる。
快楽トーン次元に2つの対立次元がある。反転の結果、快楽トーン次元は覚醒次元を逆転する。その結果、快は不快になり、不快は快になる。
快楽と快適の区別と対応

快楽=覚醒探求モードの興奮
快適=覚醒回避モードの弛緩

その他の感情

支配関連感情の図
共感関連の図


反転理論の構図(快に2系統あること)をサポートする研究に次のものがある。
吉田倫幸 (1994). 感性・快適性と心理生理指標 日本音響学会誌, 50, 489-493.
吉田倫幸 (2002). 脳波リズムに基づく快適度評価手法 食品・食品添加物研究誌(FFIジャーナル), No.202, 26-30.

快・不快,鎮静・興奮の2軸とよい気分(リラックス),いらいら,わくわく,たいくつの4つの感情
 脳波ではかるので,実行中に測ることができる。コーヒーを飲むと飲んだあと30秒くらい快が顕著に高まっている。オレンジジュースの場合飲んだあとにそれほど高まらない。ビールの場合,飲んで2,30秒後から快が15秒ほど顕著に高くなる。ということがわかる。

反転理論とよく似た考えがフロー体験ということばで探求されている。『フロー理論の展開』(今村浩明/編; 世界思想社,2003)に日本での研究も展望されている。快を考えるのには必要である。
 次の図のx座標とy座標を置き換えてみる。
M.チクセントミハイ著 (今村浩明訳)『フロー体験喜びの現象学』 -- 世界思想社 , 1996

インターネットの消費者心理  “フロー体験”の解明に向けて(米国の研究紹介)【前編】
http://www.jmrlsi.co.jp/menu/btrend/2003/journal_1.html
 Novak,Thomas P.,Donna L. Hoffman and Adam Duhachek(2002) “The Influence of Goal-Directed and Experiential Activities on Online Flow Experience,” Journal of Consumer Psychology, 13. の紹介。経験指向型とゴール指向型の行動パタン分類および行動関連づけ。


 電通のニーズ

(電通マーケティング戦略研究会 1985 感性消費・理性消費 日本経済新聞社)

(1)安心してくらしたい
 (a)健康の重視
 (b)心の不安
 (c)資源災害への不安

(2)賢く(便利に)暮らしたい
 (a)住の工夫・改善
 (b)家事再考
 (c)コンビニエンス

(3)楽しく暮らしたい
 (a)ファッション化
 (b)トライアル
 (c)ネオ・ステイタス

 ベネフィット(便益)

(1)ベネフィットの大きなタイプわけ(ex. Engel et al.,1990)

(a)功利的ベネフィット
 客観的、機能的製品属性

(b)快楽的ベネフィット
 主観的反応、感覚的快楽、美的配慮=>主観的、象徴的=製品またはサービスそれ自体の鑑賞
ex.車=地位の感覚,威信,運転の曲がる際の快

 功利的ベネフィット,快楽的ベネフィットの両者が使われる。
モティベーション・リサーチ時代は感情重視。その後,情報処理重視の時代があった。
Copeland(1924)の合理的側面と感情的側面の両者つまり功利的ベネフィットと快楽的ベネフィットを考慮する必要がある。

(2) ベネフィット・セグメンテーション

鳥居直隆・近藤礼一(1974)『ベネフィット・セグメンテーション』ダイヤモンド
Haley, R.I.(1985) Developing effective communications strategy: a benefit segmentation approach. Roland.

(a) 歯磨き使用者のベネフィット細分化(代表例)ブランドは一部改変している

名称 ベネフィット ブランド例
感覚派 味と香り,商品の外観 コルゲートストライプ
社交派 歯の白さ ホワイトアンドホワイト
心配性派 虫歯の予防 クレスト,ガム
自主派 価格 安売り銘柄

(b)鳥居・近藤(1974)(因子分析使用)歯磨き購入者

@ 味覚型…香りがよい,さっぱりする,泡立ちがよい,口臭を防ぐ,中身の色
A 価格型…安い,容量と比べて安い,店のすすめ
B 薬効型…虫歯を防ぐ,口臭を防ぐ,歯を白く,殺菌力,歯茎を丈夫に
C 親近型…評判がよい,広告をよくしている,店頭で目についた,親しい名前
D 他動型…高級品,知人・友人のすすめ,店にたくさんあった,オマケ付き,家族の希望

(c) ソフトドリンク(Haley,1985)

活動  …乾きを癒す,はげしい運動の後,リフレッシュ
味   …強い,食事と合う,いい味
食事の友…食事と合う,高品質成分
価格  …高くない,価格のわりにたくさんある)

 消費者の欲求に訴える

Engel et al.(1995) Consumer Behavior. 8th ed. Dryden.

(1)生理的欲求: 生存の基本。飢え、乾き、他の身体的要求
(2)安全への欲求:
(3)親和と所属:他者からの受容とその他者にとって重要な人物になること
(4)達成:個人の目標に合致する成功
(5)権力:自分の運命同様他人の運命をコントロールしたいという欲望
(6)自己表現:自己表現をする自由を発展させ、他者から重要人物と思われたい
(7)認知への欲求:価値体系の知識、理解、統合、構成を通じて自己実現を達成したい
(8)変化探求:生理的覚醒水準を好みの水準で維持し、変化探求そしてあらわれる刺激を維持したい。

変化探求の尺度例 青木他(1988)
・いろいろなメーカーの銘柄を使い比べる
・新製品が出ていればついつい買ってみたくなる
・試しにいつもと違う銘柄を買ってみたくなる
・試食や試飲(試用)をしてみたくなる

そのほか  ちょっとしたぜいたく http://www.dentsu.co.jp/trendbox/topics/2001/010220.html

3節 ブランド選択モデルと動機づけ

Q。合理的人間像では,葛藤は起こらないはずである。経済人やFishbein のモデルから考えられるブランド選択モデルを考えて見よ。では,実際にはなぜ葛藤が生じるのか?(3章,4章を復習しておくこと)


p140 一番下の段落 これは,探索行動について言及している。ここで問題は「曖昧さ」「覚醒」であって葛藤ではない。

探索行動には3つのタイプがある。
(1)考慮しているブランドに関する情報の探索(特定の問題解決)
(2)おもしろい刺激の探索(多様性探求)
(3)知りたい行動(epistemic behavior)

知識にかかわる行動の重要性
@ブランドの曖昧さを解決する。コンセプトレベル。
Aいつか買う機会があるかもしれない。ファッションについては女性はたいてい注意している。→製品関与
Bオピニオンリーダー。マーケット通のほうがいいか。

3 葛藤

接近−接近 ハンバーガーも食べたいし,クレープも食べたい
接近−回避 ケーキは食べたいけど太りたくない
回避−回避 古い車の修理費をだすのと新車を買うのにもっとお金をだす。

4 感情の影響

@積極的効果(いいムードのとき)情報処理のスピードをあげる、適切な製品の選択時間を減少させる。(ステレオタイプ的反応)
ネガティブなとき、客観的判断。
A活性化されたムードはそのムードと一致する連想の製品の再生へと導く
B情動はそれ自体で、ドライブの状態を活性化する。

4節 消費者の欲求の理解

測定への挑戦
@AIO質問(態度・興味・意見)質問紙による調査。

A深層面接 モティベーション・リサーチのころよく用いられていた。
 総サンプル50人以下の小サンプルに長時間の非構成(質問手順を明確に定義していない)の面接をする。
 表層下に潜って豊富なありうる動機づけ要因を明らかにするよう努める。
 問題点はテキスト参照。
飽戸弘編著(1994)消費行動の社会心理学 福村出版の終章も重要。

Bフォーカスグループ 関心のあるグループを対象にインタビュー 10名以下。通常グルインと呼ばれているものの多くはこれである。

C文化人類学(ethnography)

D記号論 中野収『気になる人のための記号論入門』ごま書店 ゴマセレクト1984
(ダイナミックさ)

記号論の考えを消費者行動に応用する考えは主としてロラン・バルト(1972『モードの体系』みすず書房:原著1967年刊)からきている。このあたりをうまく日本での現象に展開した例は星野克美(1984『消費人類学−欲望を解く記号』東洋経済新報社)である。星野ほか(1985『記号化社会の消費』ホルト・サウンダース)などもその例といえよう。ボードリヤール等を消費社会論系統を含めて多くの記号論的解釈の本がでている。
 その中で中野氏の本は記号解釈のダイナミックな面を中心に押し出しているので,記号的意味の変化を理解でき,ダイナミックな進行がわかる。

中野記号論を少し改変した図

この図で考えるべきことは,まず複数の意味が共存することである。デノテーションレベルしか解釈しないかもしれない。普通は,コノテーションのレベル@まではすぐ進む。これは,梯子登り法での抽象的属性のレベルである。コノテーションAも抽象的属性のレベルである。コノテーションBは結果または価値だが,このあとの変化を見ると結果と解釈しておいたほうがいいだろう。
 第2の点は,偽物ブランドがはやった頃の本物のブランドの意味作用との対比からでてくる。高価さからでてくる意味作用が異なってくる。これは,前提や時代や年齢や文化などによって意味の付けが異なってくることをしめしている。そして,対比するものがあればよりその意味が明確に現れてくる。

このような多様な意味は
古田隆彦(1986)『「象徴」としての商品−記号消費を超えて』TBSブリタニカ に詳細に展開されている。


ニーズについては,心理学から現場までは遠い。

 そもそも動機づけという概念が実体とは言えない。言い訳の面を多く持っている。生理学から裏付けられたもの以外はあやしいと思ってもいい。動機づけは社会的に作られたものという考えは社会学のほうである。また,マーケティングで語られているものは多くは言い訳といってもいいものだったりする。

 消費者がニーズを意識できるのかは心理学は本来懐疑的である。心理学がすべて実験的に検証しようとする方向に流れていることからもわかる。
 また,マーケティングの現場でも,いわゆる「高感度」人間を重視しているのもすべての人が自分を分析できないからだ。

 ところが,一般の人をインタビューすればそれで調査したものだという安易な考えが普及してきている。マズローのいう知る欲求と理解する欲求=意欲,審美的欲求がないものにきいてもそれはほとんどステレオタイプ的な言い訳やランダムな反応を手にするだけである。

 一方,観察する側,調査する側に審美的なものがないと観察調査はやれない。そういうものがないなら実験や定量調査にいそしむべきである。
 学問的にいえば,そういう審美的なものは仮説生成であって,仮説検証ではない。マーケティングは仮説生成部分は非常に重要である。心理学的にはそのあと検証することが重要である。

消費者がニーズを意識できるのかということに正面から疑問を投げかけている本
石井淳蔵(1993)『マーケティングの神話』日本経済新聞社
事例もあがっていて,必読書。

 この本で指摘している(p37),製品能力,製品イメージ,そして消費者欲求の関連図はこの章の「ベネフィットの大きなタイプわけ(ex. Engel et al.,1990)」で指摘したことにおおよそ対応していることに注意。またこれを結びつけようとするのが「梯子登り法」であることにも注意しておくこと。

なぜ,普及の阻害原因になっているのかという問題を考えるとき,モチベーション・リサーチは非常に役に立つ。それらの例はテキストにもでている。阻害因を取り除くのは,広告のキャッチフレーズが非常に効果的なときがある。

モチベーションリサーチの研究の入門としては,
パッカード 『かくれた説得者』 ダイヤモンド社(絶版→図書館にある)
が一番よい。
例えばつぎのような面を強調している。
 @情緒の安定を売る
 A価値の保証を与える
 B自己満足を売る
 C創造のはけ口を売る
 D愛情の対象を売る
 E力量感を売る。
 F根強いものを売る。
 G不滅を売る。

 それより簡単なのは飽戸弘編著『消費行動の社会心理学』福村出版 終章

また,2章で紹介している
ディヒター,E. 『欲望を創り出す戦略』 ダイヤモンド社
が基本的入門書である。
Dichter,E.(1964) Handbook of consumer motivations: the psychology of the world of objects. McGrwa-Hill (京大図書館蔵)
も併せて読むといい。
色彩系を中心としているチェスキンも有名。
ルイス・チェスキン(1955)『商業色彩ハンドブック−利を生む色彩』白揚社
は研究法にも言及している。
調査法および具体的研究例には
ニューマン(1963)『消費者の心理と販売管理』誠信書房
(Newman,J.W. Motivation research and marketing management)


そのほか,実際のマーケティングで考えるなら,
梅澤伸嘉(1995)『消費者ニーズの法則−消費者が買う理由,買わない理由』ダイヤモンド社
この著者にはファンもいるようだ。ニーズを本気で考えるときに参考になるだろう。
ここであげられている文献にもあたってみると良い。

三宅隆之(1990)『実線マーケティングコンセプト・チャート集』日本能率協会
三宅隆之(1991)『実線女性市場開発コンセプト・チャート集』日本能率協会
のようなタイプもヒントになるでしょう。
もちろん7章で紹介している梯子登り法も重要な手法です。

梯子登りの適用例
青木貞茂(1994)『文脈創造のマーケティング』日本経済新聞社


空腹だと,日常の食料品の買い物を多くしてしまうという研究がある。
Howerd,J.A. and Sheth,J.N.(1969) The theory of buyer behavior. Wiley.(p100)
(この本は一橋大学商学部図書室にあるが貸し出しをしない。強化校のくせにそんなことしていいのか)

2時間食べていないものは通常より$2.20多く買った。5時間食べてないものは$7.5多く買ったという。目的としていなくても,意識していない動因が行動が影響することがあることを示す重要なデータである。

動機づけやニーズはその用語の慎重な使用とそのありようを多様に考えることが必要である。


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