1節 動機づけとは何か
(1)「なぜそのような行動が生じるか?」
(2)動機づけの発想源:メタファー
(3)用語の考察
(4)定義の試み
(5)動機づけの機能
(6)フロイトの動機づけ
(7)動機パタンの一貫性と安定性
(8)欲求を創り出すことができるか?
2節 動機づけの内容理論
1 欲求階層説(マズロー)
a 欲求階層説
b 消費者行動との関連
(以上 今回)
2 HM理論 (こっから次回)
3 反転理論
4 電通のニーズ
5 ベネフィット
6 消費者の欲求に訴える
3節 ブランド選択モデルと動機づけ
→葛藤のタイプ
4節 消費者の動機を探る
研究法
1節 動機づけとは何か
(1)「なぜそのような行動が生じるか?」 説明原理 仮説構成概念
(2)動機づけの発想源:メタファー
McReynolds, P. Motives and metaphors: a study in scientific creativity. In Leary, D. E. eds. (1990)Metaphors in the history of psychology. Cambridge univ.
@.Controlling powers:persons as pawns(将棋のコマ)行動は神に決定されたもの 最初に快感があるのではなくて,傾向がある。快感と苦痛の経験は,ただ欲望を引き起こすだけであり,その欲望は傾向を強めたり限定したりして,みずから固定化することによって,傾向と混同されるようになる 同書第4章 意志
A.Personal control:persons as agents (将棋の指し手)自由意思で行動する。
例.統制の位置(帰属理論),計画
BInherent tendencies: persons as natural entities
本能のリスト,傾向性(傾性)
CBodily processes: persons as organisms
すべての現実は生気にみ満ちており,感情と意志をもっている(生命主義)
蒸気圧説:ときどきガス抜きをしないとイライラが増すよ
DInner forces: persons as machines
機械にたとえる(ニュートン力学)。時計→蒸気機関車→コンピュータ
内部状態が自動的にある行動をさせるようにする
(3)用語の考察
@この用語とその周辺語のまじめな考察
間々田孝夫(1991)『行動理論の再構成−心理主義と客観主義を超えて』福村出版 p41-58。
Aフランスにおける考え
P.フルキエ(1997)『哲学講義3行動1』ちくま学芸文庫 第3章 傾向と欲望
同義,類義の用語の解説がある
傾向−一定の方向へと向かう能動的な力
<性向,性癖,魅力><欲求 besoin><欲望 desir><本能><衝動 Trieb><欲 appetit><関心(利害)>
欲望−傾向と類似のものであり,さらに自己についての意識と我々が向かう対象についての意識を前提としている。(p195)
意志−動機や理由によって自己決定をする力(p219)
《動因》動かすもの,または行動へ導くものすべて
→非合理的な力(傾向,欲望,情念)によって構成される(犯罪の動因)
《動機》決意を引き起こす合理的要素。《理由》(理性)と同義語
《動機づけ》動かすものすべて
<意志と反対意志><意志と意向><欲する意欲と生きる意欲><意志的>
B『角川類語国語辞典』1985
欲求=広義と狭義
欲求←生理 生物的(自然現象的) 必要を満たすためにほしがり求めること
欲望←本能 生物的(人間的) あるものを欲しいと思う心
意志←判断 理性的(人間的)
C『新明解国語辞典 第5版』(1997)
欲望 物質的・肉体的に常により良い状態に自分を置きたいと思い続けてやまない心。
動機 人の意志決定や言動の直接的な原因・理由,また目的となるところのもの[広義ではきっかけの意に用いられる]
動機付け 具体的にある行動を起こさせる要因となる精神過程。特に,学習意欲を起こさせるきっかけを言う。モチベーション。
要求 必要なものとして,その実現(出現)を強く求めること。
欲求 何かがしたい(ほしい)と日夜それを求めること。
『学研現代新国語辞典』(1994)
欲望 [最低限必要なものが備わっても,それ以上に]したい,ほしい,と望むこと。また,その心。
2つの辞典の「欲望」の定義の微妙な違いに注意。
D心理学辞典の定義
欲求 [(F) Besoin]
食物や水は動物にとって必要であって、これが与えられない場合には、これを得るための行動をおこそうとする内的の<緊張>tension または<動因>drive あるいは<推進力> urge が発生する。この現象を<要求>という。麻薬、タバコ、アルコールなどの依存または嗜癖の場合にも、後天的に獲得した習慣によって周期的に同様の緊張が生ずるが、この現象を《欠乏》want といい、<要求>と<欠乏>を一括して<欲求>とよぶ。ただし、<要求>と<欲求>を同意語として<欠乏>をもふくめて使う者も多い。(宮城音弥編『岩波心理学小辞典』岩波書店 1979)
(フランス系の説明)
この説明は1回読んでもよく理解できないでしょう.あとでまた読んでみてください.
E動因(機械論的)動機(機能論的)欲求(総称)
(4)定義の試み
要求 need 生理的なもの 内的緊張
動因 drive 生理的なもの(動機づけの内的要因)
欲求 want 比較的簡単に手に入る具体的対象があり,それをその場で求めること
欲望 desire すぐには手に入らない対象や地位または少し抽象的な目的を欲し,それを求め続けること
動機 motive 行動をひき起こす意識的・無意識的原因
動機づけ motivation 動機の理論的総称 (動機−行動−目標)
目標に向かわせる行動の内的側面を一般的にさす。
誘因 incentive 動機を満足させる外的刺激(飢えた人に対する食物)
個体が動因を満足させ得る対象として認知するもの。
要求と欲求の区別は下にでてくる2つの区別の仕方があることに注意。
(5)動機づけの機能
始発機能・方向づけ機能・強化機能
動因低減説
(6)フロイトの動機づけ
フロイトの視点
@意識と無意識
A自我論
B深層から表層への置換装置(夢)
C発達段階論
D適応論 防衛機制
フロイト著作集1 『精神分析入門(正)・精神分析入門(続)』人文書院
フロイトのわかりやすい説明は,次のサイト 発達段階論は12章で扱う
(a)意識と無意識
意識 consciousness
いま気がついている心の部分
前意識 preconsciousness
いま気がついていないが、努力によって意識化できる部分
例.今年の正月にしたこと
無意識 unconsciosness
抑圧されていて意識化できにくい部分
(b)自我論
局在論・力動論
@エス(それ)
A自我
B超自我
A自我 ego ; Ich
外界とエスを仲介する領域(心の中心部分)
・現実原則が支配(知覚機能−現実吟味)
・二次過程が支配(知覚、注意、判断、学習、推理、想像、記憶、言語などの現実的思考)
・逆充当(エスの外界への突出の見張り)<ちょっと待て>
・不安(現実、エス、超自我からのおびやかし−危険信号)の防衛・処理
・統合機能(適応機能−パーソナリティの統合)
B超自我 superego : Uberich
幼少期の両親のしつけの内在化されてできた領域
・良心の禁止<〜してはいけない>
・理想の追求<〜であれ><〜しなくてはならぬ>
Cリビドー(エネルギー)
エスの領域に流入してきたリビドーは、意識へと向かう際に観念を与えられ、願望として意識化されるようになる。
そのエネルギーは、外界の対象への興味(関心)として差し向けられたり(対象リビドー充当)、筋肉運動を支配している自我に働きかけて行動となったりして、外界へ放出される。
(c)夢
夢判断(夢解釈)、検閲、あらわな夢
→解釈学
@夢作業
・圧縮 複数の人物や場面が濃縮されて現れる
例.Aさんのように見えるが、Bさんの服を着て、Cさんの仕事をしている
・移動 テーマの重要な部分が、目立たないように焦点がぼかされている
例.Aさんが主人公に見えるが、実は片隅にいる(あるいは通りかかった)Bさんの方が重要である。
・視覚化 抽象的な観念や感情などを具象的なイメージやドラマとして表現する(演劇化)、象徴化とかさなることが多い。
例.心の迷い→迷路に迷い込む
A象徴化
無意識の世界における独特な言語(知識)、万人に共通したものから、個人に特有な意味をもつものまでさまざま
性のからみ(男性器、女性器、父母、性行為、出産、こども)
B第2次工作
夢を思い出す時に、意識レベルでつじつまがあうように修正され仕上げられる。
(d)要求→欲求
need want
図
(7)動機パタンの一貫性と安定性
ひとは目的をもち一貫したやりかたで行動している、という仮説。
→自己概念:自己概念に一致する製品を購入している{仮説}高関与の場合
Belk の所有の概念:拡大自我
(8)欲求を創り出すことができるか?
「水路づけ」はできる
2節 動機づけの内容理論(分類)
1 欲求の階層構造
a 欲求階層説
マズロー(Maslow,A.H.)(1987)『人間性の心理学−モチベーションとパーソナリティ(改訂新版)』産業能率大学出版部
ヨーロッパ流の人格
下のレベルの欲求が満たされて、上のレベルの欲求がはっきりしてくる。
@生理的欲求…空腹、のどの渇き、疲れ、…など生理的変化から生じる欲求
食欲が生理的に規定されない場合がある例。 岡本浩一(1986) 肥満と性格 in 詫摩武俊監『パッケージ・性格心理4 性格の諸側面』ブレーン出版
肥満型被験者とやせ型被験者にアイスクリームの味の評価とアイスクリームの味覚(悪い,あまりよくない,おいしい)とアイスクリームの接触量が調べられた(Nisbett,1968)。結果は肥満型は味の評価によって大きく接触量が異なってくる(約20グラムから約220グラム)。やせ型は約60グラムから約120グラム)。
A安全の欲求…安全、安定、依存、保護、恐怖・不安・混乱からの自由、構造・秩序・法・制限を求める欲求、保護の強固さ
安全で秩序だった予想できる法則性のある組織された世界を好む
B所属と愛の欲求…孤独、追放、拒絶、寄る辺ないこと、根無し草であることなどの痛恨を感じる。
近隣、縄張り、一族、自分自身の「本質」、所属階級、遊び仲間、親しい同僚が重要
与える愛と受ける愛(愛と性は違う)
子どもへの有害…転居が多い、見通しがない
高度産業化→過度の移動、祖先がわからないこと、出身・祖先・所属集団をばかにすること、家や家族・友人・近隣から引き離されること、定住者でなく短期滞在者あるいは新参者になること
C尊重(承認)の欲求…安定したしっかりした根拠をもつ自己に対する高い評価、自己尊敬、あるいは自尊心、他者からの承認などに対する欲求
(1)強さ、達成、適切さ、熟達と能力、世の中を前にしての自信、独立と自由などに対する願望
(2)(他者から受ける尊敬とか承認を意味する)評判とか信望、地位、名声と栄光、優越、承認、注意、重視、威信、評価などに対する願望
○自信、有用性、強さ、能力、適切さの感情、世の中に役に立ち、必要とされるなどの感情
×劣等感、弱さ、無力感→根底的失望または神経症的傾向
D自己実現の欲求…自分がなりうるものにならなければならない
自分に適しているものをしていない限り落ち着かない。
真実,善,美,全体性,二分法超越,躍動,独自性,完全性,必然性,完成,正義,秩序,単純,富裕,無碍(むげ:何の障害もない),遊興,自己充足
(『人間性の最高価値』誠信書房)
欠乏欲求が欠けているときは、はっきりとした欲求がわかるが、成長欲求が欠けているときはなにが問題なのかわからない場合が多い。5月病のように無気力になるのは成長欲求が欠けているのだが、なにをすればいいのかわからない状態のときである。また、イエスの箱舟などのように宗教へと走るのは、所属と愛への欲求の場合と、より低い、安定性を求める安全の欲求の場合がある。
知る欲求と理解する欲求=意欲,審美的欲求も基本的欲求
この2つが高次欲求に至り,高次欲求を追求するのに必要である。
b 消費者行動との関連
Hawkins,Best,Coney(1998) Consumer behavior:Building marketing strategy. 7th ed. McGraw-Hill には商品クラスと広告コピー例がでている。
(i)必欲・必需
第2のニーズ・ウォンツの区別
(社会学者 ダニエル・ベル)
欠乏欲求,成長欲求
物質主義・脱物質主義
(ii)時代区分との関係
国の発達段階。個人の発達段階
(iii) Woods,W.A.の商品の機能
@消費者の自我を拡大する
威光商品 高級車・住宅・家具
成熟商品 酒・たばこ・化粧品
地位商品 自動車・時計
A自我の防衛
不安商品 石鹸・防臭剤・ある種の医薬品・はげの防止
B快楽商品 ファッション衣料・小物・食料品・酒類
C機能性商品 文化的・社会的意味をあまり与えていない商品。基本商品