これは「消費者行動」講義中に提示した素材を元にしたものです。若干の変更を加えています。ここにある以外の説明をしていますので注意してください。
     (香川大学経済学部 堀 啓造)
第6回1999年5月11日 counter: (1998/8/25から)
3章 消費者の問題認識と購買意思決定(その2)
前へ← 目次へ →次へ

1節 問題解決としての購買意思決定
   ヒューリスティクスとは
2節 購買意思決定問題の認識
  2 購買問題認識の状況
   意思決定を延ばす理由/必要性認知(問題認識)の原因
以上前回
3節 購買意思決定問題の認識のされ方
(決定フレームとフレーミング効果)
  1 購買における決定フレームとフレーミング効果
  2 フレーミング効果を説明するプロスペクト理論
4節 消費者の状況依存的な問題認識
(心理的財布)
  1 状況依存的な問題認識と心理的財布
  2 異なる心理的財布の視点

3節 購買意思決定問題の認識のされ方
(決定フレームとフレーミング効果)
4節 消費者の状況依存的な問題認識
(心理的財布)

これは知覚の問題 vs 必要性認知(2節)


3節 購買意思決定問題の認識のされ方

(決定フレームとフレーミング効果)
この節の理論は2002年ノーベル経済学賞をとったカーネマン氏のものです。Tversky氏(1937-1996)は残念ながらすでに死去されてます。
毎日新聞記事(2年間有効)
朝日新聞天声人語2002/10/11(すぐにリンク切れ)
日経新聞
産経新聞

フレーミング効果=心的構成効果(竹村)

意思決定問題の客観的特徴が同じで,かつその情報が指示する対象が同じであっても,その問題認識の心理的な構成(決定フレーム)によって,結果が(劇的に)異なることがある。このような現象のこと。(Tversky & Kahneman,1981)

A,Bのタイプの当たりくじがでる箱がある。A,Bどちらの箱を選びますか?


A.白玉  赤玉   緑玉  黄色  
 90%  6%   1%  3%
 0円  45百円  30百円 -15百円

B.白玉  赤玉   緑玉  黄色 
 90%  7%   1%  2%
 0円  45百円  -10百円 -15百円



C.
白玉  赤玉   緑玉  青玉  黄色  
90%  6%  1%  1%  2%
0円  45百円 30百円 -15百円 -15百円

D.
白玉  赤玉   緑玉  青玉  黄色  
90%  6%  1%  1%  2%
0円  45百円 45百円 -10百円 -15百円


100% D(N=88)
実際にこれで賭をします。という教示
58%  A(N=124)
授業中の実験
A 23%(61人)(N=263)(無答1名欠席扱い)


(Bのほうが確率的に得)C,Dと同じ。

Aは1つがマイナスでBは2つがマイナスというのが違い。この見かけが選択の仕方を決めた。


ポジティブ・フレームの問題


あなたが持っているお金の他に,2万円が入ったとします。この時,あなたは,
(a) 確実に5千円もらうか,
(b)2万円得られる確率が25%で何も貰えない確率が75%のクジを引くか,
の2つのうちいずれかの選択肢を選ばなければならないとしたら,どちらを選ぶ。


ネガティブ・フレームの問題

あなたが持っているお金の他に,4万円が手に入ったとします。この時,あなたは,
(a)確実に1万5千円失うか,
(b)2万円失う確率が25%のクジを引くか,
の2つのうちいずれかの選択肢を選ばなければならないとしたら,どちらを選びますか。(竹村,1996)


この2つの教示のバージョンは,表現は異なるが,その期待値やリスクに関しては,まったく同じになっている。
Tversky & Kahneman()内竹村,1996
(a) はリスク回避型(リスクがない)
(b) はリスク探索型(リスクがある)

   ポジティブ    ネガティブ
(a) 72%(65%) 36%(21%)
(b) 28%(25%) 64%(79%)

Tversky & Kahneman(1988)
$300増えた
(a)$100確実に得る
(b)$200得るチャンスが50%,なくなってしまう確率が50%
$500増えた

(a) 確実に$100失う
(b)[すべて失う]のと[$200失う]が半々

利得を含む選択の場合は普通リスク回避
損失を含む選択の場合は普通リスク探索
(ただし,損得の確率が低い場合を除く)
フレームによって意思決定が異なる。

1 購買における決定フレームとフレーミング効果

割引(小嶋,1986)p179
 比率表示と値下げ金額表示のどちらがよく売れるか?
一流ブランド    値下げ比率表示
二流以下ブランド  値下げ金額表示  

フレーミング効果が存在する。
→効用理論(経済学)やマーケティングの数理的モデルではこの効果を説明できない。効用理論や数理的モデルの多くは,説明の一般化のために,意思決定問題の言語表現の形式の相違を無視している。


問題A
「12,500円のジャケットと1500円の電卓を買おうとしたところ,店員から,自動車で20分かかる支店に行くと1500円の電卓が1000円で販売していることを聞かされた。その支店まで買いにいくかどうか。」




問題B
「12,500円の電卓と1500円のジャケットを買おうとしたところ,店員から,自動車で20分かかる支店に行くと12,500円の電卓が12,000円で販売していることを聞かされた。その支店まで買いにいくかどうか。」



Aでは68%が支店までいく
Bでは29%が支店までいく

→2つ一緒の買物なのに電卓とジャケットを別々に考えた。つまり電卓の買物とジャケットの買物という2つの意思決定の問題に分離してフレーミングを行った。
問題Aでは,1500円が1000円に注目。
問題Bでは,
12,500円が12,000円の部分に注目。

では,二流以下のブランドの場合の割引額提示といってたのはどうなるの。


2 フレーミング効果を説明するプロスペクト理論

意思決定過程は,
(a)編集段階:問題を認識し,フレーミングする
(b) 評価段階:その問題認識にしたがって選択肢の評価を行う。
の2つの段階に分かれる。
編集段階では,わずかの言語表現の相違などによってフレーミングのされ方が異なってしまうので,意思決定問題の客観的特徴がまったく同じであってもその問題の認識が異なってしまう。

編集段階は後続の処理(評価と選択)を簡単にするものである。
評価段階でも非線形問題がある。客観的価値(金額)と主観的価値(効用)の間の関係。
○電卓問題の説明
○複数購入の場合,(値段の高いほうよりも)値段が安い商品の値下げ額を大きくする。
○ 値引きの比率表示,金額表示


4節 消費者の状況依存的な問題認識

1 状況依存的な問題認識と心理的財布

「心理的財布」(小嶋)
消費者が異なる複数の財布をあたかも所有しているように行動し,購入商品やサービスの種類や,それらを買うときの状況に応じて別々の心理的な財布から払う。
それらの心理的財布は,それぞれが異なった次元の価値尺度を持っているので,同じ商品に同じ金額を支払った場合でも,その金額を支払う財布が異なれば,それによって得られる満足感や,出費に伴う心理的痛みも異なる。


例1
1人で食べるフランス料理
恋人と食べるフランス料理
友人と食べるフランス料理

例2
スーパーのキャベツの値段に対する評価新幹線での弁当の値段に対する評価
表3−1(p53)


2 異なる心理的財布の視点

          <商品間>
            |
    同金額のコンパ | ステレオの機能
    と本の痛み   | 高齢者と若者
<個人内>―――――――+――――――――<個人間>
    普段の食事   | マウンテンバイク
    旅行先の食事  | 好みによる
            |
          <商品内>

小嶋(1986)
ボーナスや宝くじの賞金。 →心理的財布は拡大

一時的な経済的収入の縮小> →心理的財布は同じ

クレジットやローンはどういうメカニズム?

小嶋外弘(1972)『新・消費者心理学』日本生産性本部
小嶋外弘(1986)『価格の心理─消費者は何を購入決定の“モノサシ”にするか』ダイヤモンド社
田中正雄・北山修平(1974)『心理的サイフ』ダイヤモンド社


意思決定のサイト
小橋康章さんのページ 下の方 意思決定について考える

前へ← 目次へ →次へ