これは「消費者行動」講義中に提示した素材を元にしたものです。若干の変更を加えています。ここにある以外の説明をしていますので注意してください。
          (香川大学経済学部 堀 啓造)

第18回1999年06月22日 counter: (1998/8/25から)
11章 消費者の関与
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1節 関与がなぜ問題となったか
2節 関与にどういう側面があるのか
3節 関与の測定
4節 関与と情報処理
5節 購買関与が高まる時
6節 関与と消費者行動モデル


 日本の男性なら、に対して関心が高い人が多い。車をさわられたり、または乗っている車のブランドの文句を言われると怒りを覚える人もいる。また、女性ならファッションについて関心の高い人が多い。ファッションについてほめられると舞い上がり、ちょっとでも悪く言われると気分が沈んでしまう人もいる。なぜ、このようなことが起こるのだろうか。それは、車、あるいはファッションに自分が巻き込まれているからである。このように巻き込まれている状態を関与(involvement)という。こまかな定義については2節でくわしくとりあげる。ここでは、関与とは個人的にそれに巻き込まれた状態にいるということとしておく。
(堀 啓造「消費者の関与」in 杉本徹雄『消費者を理解するための心理学』福村出版,1997,p164)

1節 関与がなぜ問題となったか

広告などでは,低関与が普通だ
関与にどういう側面があるのか

[註]調整変数(moderator variable): 2つ以上の変数の間の関係に、経験的もしくは理論的に影響を及ぼしている変数。たとえば、実験的に操作された特定の独立変数Xと観測された変数Yとの関係が、第3の変数Zの値に影響されるとき、変数Zを調節変数と呼ぶ。[酒井春樹]社会心理学小辞典 1994(有斐閣)

2節 関与にはどういう側面があるのか

1 関与概念の始まり

ウィリアム・ジェームス(1891)『心理学 上・下』岩波文庫
A.W.オルポート(1943)
M.シェリフとキャントリル(1947)

James(1891)は行為者としての自己つまり主我と対象としての自己つまり客我(me)を区別した。客我は物質的客我、社会的客我、精神的客我の3つに分かれる。物質的客我は身体、衣服、家族、家、収集した財産のことである。社会的客我はひとびとから認められたもの、たとえば名誉がそうであり、その社会的立場から要求されることからなる。精神的客我は自分のいろいろの意識状態・心的能力、諸傾向であり、意志的決心のように能動的に感じられるもののほうが中心的なものとなる。

ジェームズの物質的自己という考えは製品関与と強く関係している。同時に社会的自我、精神的自我なども関係する。これらに、自己追求、自己評価の側面を考えている。
『物質的客我−身体がわれわれ各人の物質的客我の核心である。...。衣服がこれに次ぐ。...。次にはわれわれの直接近親の家族が自我の一部をなす。...彼らが死ねば、自己の一部が亡くなったようにように感じる。彼らが何か悪事をはたらけば、自ら恥を感じる。彼らが侮蔑されれば、自分がその場に居たかのように怒りが爆発する。次は我々の家である。...。われわれは、皆、自分の身体を大切にし、装飾的な衣服をまとい、父母妻子を大切にし、自分のために自分自身の家を見いだしてその中に住み、これを「改善」しようとする盲目的な衝動を持っている。
 同じような本能的衝動がわれわれを駆り立てて財産を集めさせる。このようにして集められた財産は、その親密度は異なるが、われわれの経験的自我の一部となる。われわれの財産の中で最も親密に我がものと感じられる部分は、最も多く自分で労力を注いだものである。生涯をかえて自分の手や頭を使って築き上げたもの−例えば昆虫標本の収集や広範囲の研究成果を盛った原稿−が不意に紛失したとき、自分自身が無に帰したように感じない人は少ない。守銭奴がその金について感じるところも同様である。われわれがその所有物を失って落胆するのは、部分的には、その所有物が自然にもたらすであろうと予期していた便益が、いまやなくなってしまったという感じによることは事実であるが、それ以上に、自分自身の一部が無に帰したというような、自分が萎縮した感じが必ずあり、それ自身が一つの心理現象なのである。....』
『心理学 上』1992

Allport(1961)ではJamesの考えをさらに深めて、自己の7つの様相を考えている。(*Allport(1961)では、自己の7つの様相を統一するものとして固有我という用語を割り当てている。*)7つの様相とは、身体的自己、自己同一性(名前、着衣・装飾・特別の身仕舞い)、自尊心、拡大自己(所有の意識;僕の3輪車、わたしの父さん)、自己像(あるがまま・そうありたい・そうでなければいけない)、理性的主動者(考えることについて考えるフロイトの自我;意志的決定をするもの)、固有的希求(方向性・意向性)である。日常の経験において、7つの様相がばらばらに働くのではなく、それらのいくつか、あるいはすべての側面が共に存在する。

2 さまざまな関与概念

自我関与←→コミットメント

(広い範囲)   (製品クラス)  (ブランド・店)
 ニーズ    →  関与  →  コミットメント

永続的関与  ←→  状況関与
自我関与       購買関与
製品関与       広告関与

関与の諸側面図

《関与と重要性》
 関与と処理についてはRyle(1987)のような考え方が重要である。重要だから注意深く処理するのではなく、注意深く処理しているなどの特徴から重要だという認識が生じる。重要だとわかってもどのように処理するかをコントロールするのは難しい。この点で、Bloch & Richins(1983)の重要性が関与を規定している図式は欠点がある。Bloch & Richinsの図式は重要性という媒介概念をはずし、その役割を直接関与が担えば成立するものである。

3節 関与の測定

感情的関与・認知的関与・ブランドコミットメント(小嶋外弘ほか,1985)
───────────────────────────
表1 関与尺度(小嶋ほか,1985)
───────────────────────────
(1)感情的関与
  @私にとって関心のある製品である
  A使用するのが楽しい製品である
  B私の生活に役立つ製品である
  C愛着のわく製品である
  D魅力を感じる製品である
  E商品情報を集めたい製品である
  Fお金があれば買いたい製品である
(2)認知的関与
  @いろいろなメーカー名やブランド名を知っている製品である
  Aいろいろなメーカーの品質や機能の違いがわかる製品である
  Bいろいろなメーカーの広告に接したことがある製品である
  C友人が購入するとき、アドバイスできる知識のある製品である
  Dいろいろなメーカーの製品を比較したことがある
  Eこの製品に関して豊富な知識を持っている
(3)ブランドコミットメント
  @この製品の中にはお気に入りのブランドがある
  Aこの製品を次に買うとすれば、購入したい特定のブランドがある
  B買いに行った店に決めているブランドがなければ他の店に行っても同じものを手に入れたい製品である
───────────────────────────
表2 購買意思決定関与の例(青木他,1988)
───────────────────────────
  @商品について情報を集めたい商品である
  A銘柄間でいろいろな特徴を比較してから購入する
  B多少時間や金をかけても品質のよいものを買いたい
  Cいつもとは違う銘柄を購入する時、期待通りであるかどうか心配である
  Dできる限り時間をかけて慎重に銘柄を選ぶ
───────────────────────────




永続的関与( or 意思決定関与?)


1この製品のことを書いてある記事を読むのが好きだ
2この製品について『暮らしの手帖』などの評価記事を読む
3 ブランド間の製品特徴を比較したことがある
4この製品の広告にいつも注意している
5ほかの人といつもこの製品について話している
6この製品を買う前に他の人のアドバイスをいつも求める
7この製品を買う前に多くの要因についてあれこれ考える
8どの種類を買うか選ぶのにいつもたくさんの時間を費やす

McQuarrie and Munson(1992)

4節 関与と情報処理

 Maclnnis & Jaworski(1989)は広告の場合の情報処理をモデル化している。関与の水準(ブランド処理動機づけの強さ)に応じて処理および結果を6段階にわけて考えている。処理には注意、容量、処理水準、を考えている。処理水準の低い状態から順に代表操作を特性分析、基本的カテゴリー化、意味分析、情報統合、役づくり、構成過程がある。そこでおこる行動に対する態度形成は、順に、(もし喚起されたら)ムード生成の感情、純粋感情転移、発見的評価(意味分析からステレオタイプ的に反応する)、メッセージに基づく説得、共感に基づく説得、自己が創り出した説得である。Greenwald & Leavitt(1984)の前注意が第1水準、焦点的注意が、第2、第3水準、理解が第4水準、精緻化が第5、第6水準に対応しているといえる。焦点的注意、精緻化を感情中心の処理と認知中心の処理に分割し、認知中心の処理を上位においている。Greeenwald & Leavitt,Maclnnis & Jaworskiの2つのモデルとも関与の水準が高くなれば処理の水準が高くなると考える点では共通である。
----------------------------------------------------------------------------
         基本的カ
   特性分析  テゴリー化 意味分析  情報統合  役づくり  構成過程
----------------------------------------------------------------------------
態度 ムード生  純粋感情  発見的   メッセージ 共感に基づ 自己が創り
形成 成の感情  転移    評価   に基づく説得 く説得   出した説得
----------------------------------------------------------------------------

1 情報処理の諸側面

反応関与でいわれていること。
(1) 事前探索
(2) 情報探索と獲得
(3) 意思決定
(4) 意思決定後

2 関与の水準と情報処理の関係づけ

3 認知エキスパート

消費のエキスパート化の問題を扱っているものにAlba & Hutchinson(1987)がある。かれらは従来の研究から、認知努力と自動化、認知構造、分析(選択的符号化、分類過程、推論)、精緻化(解釈推論、装飾embellishment、問題解決)、記憶についての仮説を挙げている。

 Alba & Hutchinson(1987)によるとエキスパートは自動処理に抵抗することができる。関与の水準が高いと自動処理の考慮集合以上のものを考慮できるようにする。ブランドまたは購買意思決定に個人的関与が高いとブランドに関した情報の自動的検出が購買後すぐに発達する。(*エキスパートは関与が低いときや情報負荷が高いときに非分析的処理をする。*)

Alba, J.W.,& Hutchinson, J.W. 1987 Dimensions of consumer expertise. Journal of Consumer Research, 13, 411-454.

4 自動処理・意識的処理

関与と説得

5 単純な処理・複雑な処理

 Celsi & Olson(1988)は関与および知識と注意の時間、認知反応に基づいて作成した指標の理解努力、注意の焦点、精緻化との関係を調べている。状況関与および永続的関与は注意の量、理解の努力(全思考量)、注意の焦点(全思考に対する製品に関した思考の率)、精緻化(全思考に対する製品に関する推論の率)にそれぞれ関係している。
 知識の影響を除くと、永続的関与は注意の時間以外の効果はなくなる。また、状況関与は精緻化において効果がなくなる。関与はそれぞれ処理を深くしているが、より、深い処理、特に精緻化と注意の焦点づけは知識の効果が大きい。また、知識の効果を除くことで、永続的関与の効果がなくなることから、永続的関与が処理の程度を深めているのは知識によるところが大きいといえる。

 Maheswaran & Meyers-Levy(1990)は問題関与を教示によって操作し、認知反応を測度として関与の高低による態度と処理との関係を明らかにしている。認知反応をメッセージ関連思考、単純評価思考、肯定思考、否定思考にわけている。態度を従属変数として、メッセージ関連思考と単純評価思考を独立変数として重回帰分析をしている。高関与の場合はメッセージ関連の思考のみが態度を予測し、詳細な処理が行なわれるのに対し、低関与の場合は単純評価思考のみが態度と予測し、単純な推論が行なわれていることを示した。また、高関与のときはネガティブな枠づけ(〜しないと、悪い結果がおきますよ)のほうが効果があり、低関与のときにはポジティブに枠づけする(〜すると、ましな結果があります)ほうが推奨している行動に対する態度および行動意図に効果がある。態度と意図の関係も高関与のときのほうが高い。

 Kardes(1988)は広告の結論を明示した場合と明示しない場合で高関与、低関与の努力量が違うことを立証した。関与の操作は「思っているより早く自分のCDプレーヤーをもてるでしょう。CDプレーヤーのなかにはとてもひどいものと、とてもよいものがあります」という教示を高関与群に与え、低関与群にはこの教示部を除いている。結論を明示した場合は、高関与でも低関与でもブランド態度の形成は明示された結論に基づいて行なわれており、ブランド態度へのアクセス可能性は低く、反応時間が遅い。結論を含まない場合、高関与のときには自動的に結論を創り出して、ブランド態度を形成するので、ブランド態度へのアクセス可能性が高くなり、反応時間は遅くなる。一方、低関与の場合、不完全な情報に基づいてそれなりのブランド態度が形成されるが、結論明示の場合と同じく、ブランド態度へのアクセス可能性が低く反応時間は遅い。

 Maheswaran & Meyers-Levy(1990)は教示によってリスク的な問題関与を操作し、認知反応および、態度を測定している。高関与の場合は態度がメッセージ関連思考と関連しており、詳細な処理をしていることがわかる。これに対して低関与の場合は態度が単純評価思考と関連しており、単純な推論をしていることがわかる。また、ネガティブな枠付け(〜しないと、悪い結果があります)は高関与の場合好意的に態度を形成するが、低関与の場合は有意に好意度が低くなる。ポジティブな枠付け(〜すると、良い結果があります)は関与に関係しない。相対的位置は、高関与の場合、ネガティブな枠付けの場合にポジティブな枠付けよりも好意的態度が形成され、低関与の場合は逆になる。このことも、高関与のほうが深い処理をしていることを示唆している。

 Bolfing & Woodruff(1988)は高関与場面(友達を呼んだ家での土曜の夜のディナーパーティー)と低関与場面がワイン(家族だけでの平日の夕食)を飲んだあとの満足について、検討している。低関与は過去の経験とその場の経験がブランドの評価に影響するが、高関与は過去の経験よりも、その場の経験がブランドの評価に影響する。
これも、周辺ルートが低関与に影響していることを示す。

 Gardial & Biehal(1985)は記憶へのアクセス可能性が関与と交互作用することを検証している。記憶へのアクセス可能性が高いと高関与よりも低関与のほうが属性再生成績がよい。しかし、記憶へのアクセス可能性が低いと高関与のほうが再生成績がよい。低関与はほとんど再生できない。意志決定には交互作用はなかった。アクセス可能性が低いときにのみなんらかの積極的な関連付けが必要であり、関与の差がでる。

 Maheswaran & Sternthal(1990)はエキスパート(ここでは知識の多いもの)とノービスによってメッセージタイプ(パソコンの利点だけ、属性だけ、利点と属性の広告)に対する反応が異なることを示した。関与は教示によって操作している。エキスパートは低関与でも高関与でも属性だけを与えられたときに製品評価が高く、属性に関する認知反応も多い。高関与になったときに属性+利点広告群は製品評価を高くし、属性に関する認知反応を増やしている。利点だけ群は関与による変化をしない。一方、ノービスは、低関与のときすべての群で製品評価も低く、認知反応も少ない。高関与になると低関与に比べ、利点訴求群(利点のみ群と利点+属性群)が製品評価も高くなり、属性の再生および属性関連の認知反応が多くなる。ノービスは高関与にすることによって利点を与えると文字通りにとり好意的に評価するようになる。エキスパートは低関与でも属性を与えただけで推論をし評価を下している。エキスパートとノービスに最初から処理の仕方に違いがあり、関与の効果はメッセージの与え方に応じそれぞれ違っている。

(* Krugman(1977,79)は高関与をより左脳の活動、低関与をより右脳の活動としたが、Janiszewski(1988)は前意識処理が、右脳でも左脳でもおこり、それぞれ図と言語の処理を中心とする半球に対応していることを示した。*)

Bolfing, C.P.,& Woodruff, R.B. 1988 Effects of situational involvement on consumers' use of standards in satisfaction/sissatisfaction processes. Journal of Consumer Satisfaction, Dissatisfaction and Complaining Behavior, 1, 16-24.

Celsi, R.L.,& Olson, J.C. 1988 The role of involvement in attention and comprehension processes. Journal of Consumer Research, 15, 210-224.

Gardial, S.F.,& Biehal, G.J. 1985 Memory accessibility and task involvement as factores in choice. Advances in Consumer Research, 12, 414-419.

Krugman, H.E. 1977 Memory without recall, exposure without perception, Journal of Advertising Research, 17(4), 7-12.

Krugman, H.E. 1979 Low involvement theory in the light of new brain research. in J.C.Maloney & B.Silverman (eds.) Attitude research plays for high stakes. Chicago,Il: American Marketing Association. pp.16-22.

Maheswaran, D.,& Meyers-Levy, J. 1990 The influence of message framing and issue involvement. Journal of Marketing Research, 27, 361-367.

6 購買関与と情報処理は同じか

 関与そのものを情報処理としてとらえる立場(Lastovicka,1979; Gensch & Javalgi, 1987; Bolfing,1988など)もある。上の例からすると関与は単純に処理のレベルの違いを現しているようにとることができる。つまり、高関与は広範問題解決型処理をしており、低関与は習慣的問題解決をしているとみる見方である。しかし、広告処理方法が関与とエキスパートとの交互作用によって違ってくるように、単純に処理と割り切るとわからない現象がある。関与と処理とは一応切り放しておくほうが、処理方法の切り替えのメカニズムおよび処理タイプの割り出しに役立つ。


 関与をその問題が生じてはじめて行う問題解決だとすると、従来の事前思考(Groeneveld,1964)の概念が関係する。事前思考の程度を客観的指標から割だそうとするものである。価格、購入頻度、大きさ、製品寿命(腐敗・損傷、スタイル旧式化)からその事前思考の程度を割だそうとするものである。心理的な関与を考えずに客観的指標だけで事前思考の程度を推測できるならば、関与の概念は必要ないことになる。

Bolfing, C.P. 1988 Integrating consumer involvement and product perceptions with market segmentation and positioning strategies. Journal of Consumer Marketing, 5(Spring), 49-58.

Gensch, D.H.,& Javalgi, R.G. 1987 The influence of involvement on disaggregate attribute choice models. Journal of Consumer Research, 14, 71-82.

Groeneveld, L. 1964 A new theory of consumer buying intent. Jouranal of Marketing, 28(3), 23-28.

Lastovicka, J.L. 1979 Questioning the concept of involvement defined product classes, Advances in Consumer Research, 6, 174-179.

5節 購買関与が高まる時

1 購買関与の規定因

知覚リスク(主観的)←→客観的(事前思考(Groeneveld,1964)の概念)

関与が高まるか図

(1) 個人的要因
(2) 製品要因
(3) 場面要因

2 喜びとしての購買関与と恐れとしての購買関与

Laurent and Kapfere(1985)
《−》
@マイナスの結果の重要性
A間違った購買をする主観的確率
《+》
B快楽価値
C記号価値(象徴価値)

3 購買関与と製品関与がともに高い場合

4 関与とマーケティング担当者(マーケター)


6節 関与と消費者行動モデル (追加)

 米国の消費者行動テキストの関与の取り扱いはだんだん小さくなっている。そんな中で,今も関与に中心的役割を果たさせているものにAssael のテキストである。現在5版(1995)である。すでに1998年1月に6版の刊行が予定されているので変更があるかもしれないが,アサエルの考えを紹介しながら,なぜ,関与が重要か考えてみよう。関与が調整変数として重要であることをテキストで指摘している。

 アサエルは4つのタイプの消費者行動として関与と消費者行動との関係をまとめている。高関与購買と低関与購買に区別しているが,これは購買関与のことをいっていることになる。アサエルの説明では自己との関わりとリスクの両面をいっているので曖昧であるが,購買関与と考えていいだろう。

 意思決定法を第1の次元としている。これは連続体としているがおおきく2つのタイプに分けている。一方の極は《意思決定》であり,情報探索やブランドの選択肢が考慮される。もう一方の極は,《習慣》であり,ほとんどまたは全く情報探索はせず,またブランドも一つしか考慮しない。




       高関与               低関与
      購買意思決定            購買意思決定
  
意思   意思決定過程       ┃  意思決定過程
決定     複雑な意思決定過程  ┃    限定的意思決定過程
                  ┃     (変化探索行動)
     効果の階層        ┃  効果の階層
       信念         ┃     信念
       評価         ┃     行動
       行動         ┃     評価
     理論           ┃  理論    
       認知学習       ┃    受動的学習
     製品クラス例       ┃  製品クラス例 
       乗用車        ┃    大人用シリアル
       ビデオ        ┃    スナック食品
                  ┃         
    ━━━━━━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━━━━━━
     意思決定過程       ┃  意思決定過程
慣習    ブランドロイヤルティ  ┃    惰性(inertia)
     効果の階層        ┃  効果の階層
      (信念)        ┃     信念
      (評価)        ┃     行動 
       行動         ┃    (評価)
     理論           ┃  理論  
      道具的条件づけ     ┃    古典的条件づけ
     製品クラス例       ┃  製品クラス例 
      運動靴,大人用シリアル ┃    缶詰め野菜,紙タオル
                  ┃         
           
       図 Assael(1998) の関与と意思決定の図

 《複雑な意思決定》は行動する前によく考えよという伝統的階層(知情意)を表している。これは,認知学習のパラダイムとよく一致する。消費者にブランド態度を発展させ,ブランド選択肢の詳細な評価を要求するものとなる。
 《ブランドロイヤルティ》:消費者は,過去の満足や,その結果としての特定のブランドへの強いコミットメント(傾倒,肩入れ)によって,深く考えることなく購買する。アサエルはこの事態を道具的条件づけがよく説明するといっているが,どうしてか考えよ。
 ブランドロイヤルティでは,購買時に信念や評価が新たに作られるわけでないので,これらは括弧にくくられている。

 《惰性(inertia)》では《ブランドロイヤルティ》があるから同じブランドを買うのではない。他の選択肢を捜す時間をつかったり,面倒をするに値しないから同じブランドを買う。惰性ではまず広告などによって信念が作られる。情報探索をしない,受身的にである。消費者は古典的条件づけにしたがって,考えることなく,製品と信念が結びつく。そこで製品を見たらその連合が喚起され,その製品を買うことになる。
 Batra and Ray(1986)の研究では,低関与の場合,繰り返し広告はそのブランドに対して好意を増す。しかし,高関与の場合,最初は好意を増すが,繰り返しによって,逆効果が生じる。Hawkins and Hoch(1992)でも,低関与の場合繰り返しによって,広告の主張を真実だと受け入れる率が増えることを示している。
 Hoyer and Brown()の研究だと,ピーナッツバター(低関与製品クラス)の場合,そのブランドを知っているというだけで選んでいる。(これは限定意思決定のほうではないのかな?)このことから,低関与の場合,一番よく知っているというだけでそのブランドが買われる。(→これは,シェア1位をねらう日本企業の戦略と一致する。)このようなブランド知名は広告の繰り返しによって作られると言える。

Batra, R.,& Ray, M.L. 1986 Situational effects of advertising repetition: The moderating influence of motivation, ability, and opportunity to respond. Journal of Consumer Research, 12, 432-445.

Hawkins, S.A. and Hoch, S.J. (1992). Low-involvement learning. Journal of Consumer Research, 19,212-215.

 《限定的意思決定》:新製品の紹介を見て,買ってみる。ここでは受動的に情報を受けているだけで,積極的に理解しようともしない。ただ,名前を覚えていて買ってみるだけだ。この形態の意思決定の重要なものに《変化探求》がある。Bruskin の研究では,前のブランドに対する好意は変わらないけど,他のブランドを買ってみるということをしている。不満だからブランドスイッチをするのではなく,ただ単に新奇性を求めているのだ。

 惰性も限定的意思決定も無計画な購買行動に結びつく。

低関与からみた消費者像
@消費者は情報をランダムに学習する。
A消費者は情報を受け取るだけ。
B消費者は広告の受身的な聞き手だ。(聴くと聞くの区別に注意)
C消費者は買った後にブランドを評価する。
D消費者は満足の最適水準を求めるというより,受容可能な満足を求めている。
E性格やライフスタイルは消費者の行動に関係しない。
F準拠集団は消費者にほとんど影響を与えない。


広告会社では,関与を利用するところもある。FCB(Foote Cone and Belding)は早くから取り組んでいる。関与の側面を思考と感情にわけてグリッドを作っている(尺度の詳細は堀(1991))。この区別は広告の際,感情面を重視するか,功利的側面を重視するかという点で重要である。
 別の会社はネガティブ動機とポジティブ動機に分ける。ネガティブ動機が思考動機,ポジティブ動機が感情動機に対応する。ネガティブ動機(保険,クレジットカードなど)は問題解決をする。ポジティブ動機は嗜好(ソフトドリンク,ワイン)や自己高揚(香水,スポーツカー)と関係する。(この考えは,購買関与,製品関与の区別に関係することに注意せよ。また,5節2で述べているテーマである。)

               購買動機
       思考              感情
                 ┃  
                 ┃  
  高  ●保険         ┃      ●スポーツカー
                 ┃  
  ↑   ●エコノミック・カー ┃  
                 ┃  
  関  ●タイヤ        ┃        ●香水
                 ┃  
  与 ●クレジットカード    ┃  
      ●鎮痛薬       ┃   ●ワイン   
   ━━━━━━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━━━━━━
                 ┃        
  水              ┃           
      ●日焼け止めローション┃  ●ピザ   
                 ┃       
  準 ●液体漂白剤       ┃       
                 ┃        ●ビール
  ↓              ┃      
         ●剃刀     ┃  ●ソフトドリンク  
  低              ┃         
      ●紙タオル      ┃              
                 ┃         
        図 FCBの関与と商品の概略図

感情面と思考面(功利面)に注目しているのは,日本でも多い。例えば,
電通マーケティング戦略研究会編(1985)『感性消費理性消費』日本経済新聞社
残念ながら,感性・理性の区別にとらわれて程度の強さについては考慮されていない。それでも参考になるであろう。
 佐々木土師二(1988)『購買態度の構造分析』関西大学出版部
も合理性,情緒性の区別がなされている。
 日本のこれらの考え方は上にあげた米国の研究例とは違った面がある。

 最初のアサエルの分類に戻ろう。なぜ関与が重要と考えられるかは,関与の高低によって消費者行動がまったく違ってくる可能性が高いからである。実験的に示したものは,テキストとこの頁にも補充している。乗用車を買うときの行動とピザを買うときの行動を同列に扱うことはできない。そのときにいろいろな説明が可能であろう。大まかな見取り図を作るのが関与の概念である。そうすると,行動を後追いするだけでなく,理論からどういうアクションが想定できるだろうか? 応用する段になると,FCBのいう思考と感情の側面は無視することはできない。また,テレビは低関与メディアという点も考慮しなければならない。広告コンセプト,出稿メディア(メディアミックス),接客方略などは当然違ってくるのである。

課題 高関与型,低関与型の製品クラスまたは消費者を対象にしてどう攻めるべきか考えて見よ。



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