消費革命(consumer revolution)
堀 啓造(香川大学経済学部)
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(2003/ 2/19からの累積)
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消費革命ということばがある。1960年度の『経済白書』(残念ながら「消費革命では検索できない。「消費」または「革命」で検索してみよう。年度を絞っておくほうがいい。)が使用した言葉で,社会学事典などにも載っている用語である。Google を使って検索したところ英語圏には,森岡ほか(1993)『新社会学辞典』有斐閣にある,consumption revolutionの使用例が見つからなかったが、consumer revolution は多く見つかった。
ある現象を指すのに便利な言葉である。
18世紀(1760年頃)にイギリスに起こった産業革命が世界各地に波及した。工業化が波及したのである。米国でも19世紀にこの影響を強く受けた。さらに米国は第1次大戦後(1919年),フォード自動車の大量生産やフォーディズムの影響,電気の普及により空前の活況をていした。1920年代電気製品が普及した時期である。これは1929年の大恐慌」によって終わるが,この1920年代が米国の消費革命である。イギリスの産業革命がもたらしたイギリスでの家族を中心とする価値観は米国では大きく変わり,消費を愉しみ,若さをもっともよいとする価値観をもたらした。そこでは大量生産,大量消費の世界が切り開かれたのである。このあたりの説明は佐伯啓思(1993)と現象面と価値観については常松(1997)の本がよくまとまっていてよい。
佐伯啓思(1993)「欲望」と資本主義 講談社現代新書
常松洋(1997)大衆消費社会の登場(世界史リブレット48)山川出版社
日本では第2次世界大戦敗戦までは産業革命の時期と考えていいだろう。戦後1950年代半ばから1960年代末まで(井関,1993)が消費革命の時期だと言われている。高度成長期が1956年〜1973年とされるのでほぼこの時期に重なっている。
このあたりの事情を追ってみよう。まず、戦後の区分について朝日新聞(2002年7月22日付け香川県版朝刊 転機の教育 日本の学力)に従う。
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1945〜1955 戦後不況
1955〜1973 高度成長期
1974〜1985 安定成長期
1986〜1991 バブル経済
1992〜2001 失われた10年
1945〜1955 戦後不況
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1945 敗戦
1945〜1952年4月までGHQ(連合国軍総司令部)が日本に駐在。進駐軍のため日本の電機メーカーに電気洗濯機などを作らせた。しかし,電気洗濯機を作るよりも人を雇って洗濯させる方が安いと気が付き,人手を使うことになった。この命令により日本も本格的に白物電気製品をつくるきっかけとなる。
1950 朝鮮動乱特需 景気低迷から脱出
1953 スーパーマーケット 紀伊國屋開店。街頭テレビ人気,蛍光灯普及し始める。
1954 電気冷蔵庫・洗濯機・掃除機が「3種の神器」の地位獲得。その後怒濤のごとくの電気製品の普及の端緒。
3種の神器についてはさまざまある。「電気掃除機」の必要性は低かったものと思われる。米国文化のように土足で家に上がらないので,ほうきでも十分楽である。1955年に発売された電気釜のほうが手間を省くという点では大きな貢献をした。電気釜は他のものと比較して安かったので早く普及している。1958年において15.6%。電気掃除機は統計をとる時期そのものが遅いが,最初の統計の1960年において7.7%,そのとき電気釜は31.0%であた。3種の神器については山口(1999)が詳しい。
それによると,1954年三種の神器ということばが使われる(冷蔵庫,電気洗濯機,電気真空掃除機)。1955年冷蔵庫,洗濯機,電気釜は当時「白もの御三家」。1957年三種の神器は白黒テレビ,洗濯機,冷蔵庫に変わった。
電気冷蔵庫は1913年にアメリカで実用化され,20年代に日本へ輸入された。30年に国産品が出現したが,価格は700円以上で家1軒が買えるほど高価だった。電気洗濯機,電気掃除機とも1930年,1931年に国産化されているが一般家庭への普及は戦後になってからである。(平凡社世界百科事典,CD-ROM 版, 1991)
『週刊朝日』 1955年8月21日号, 3-11頁に「洗濯機と冷蔵庫−家庭電化時代来る」という記事があり,「家庭生活の3大利器」(冷蔵庫,掃除機,洗濯機)といっている。説明のなかには,発売時期の関係か「炊飯器」がない。
次の階級区分も興味深い。 テレビ放送開始は1953年である。
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第1階級 テレビ,真空掃除機
第2階級 電気冷蔵庫
第3階級 電気洗濯機
第4階級 ミキサー,扇風機,電話
第5階級 電熱器,トースター
第6階級 ラジオ,アイロン
第7階級 電灯
1955〜1973 高度成長期
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1955 実質国民所得が戦前の最高水準に回復。
1956 経済白書が「もはや戦後ではない」と宣言。
1959 経済白書 「消費革命」のことば使用。
1960 池田内閣「所得倍増計画」1970年までに所得を倍増するといったが,それ以上に伸びる。年平均7.2%の成長率。その間,都市化(都市への人口集中)が続いた。
1964 東京オリンピック
1966 3Cの時代(カー,クーラー,カラーテレビ)
1967 公害対策基本法制定
1968 大気汚染防止法制定。1967〜19694大公害裁判訴訟
1970 大阪万博,光化学スモッグ初認定
1972 日本列島改造論,貿易黒字拡大
1973 第1次オイルショック,円変動相場制
1967年以後は公害関係の法律や訴訟(リンク先の下の方,新しいサイトにはなくなっているようだ)が多く起こっている。大気汚染や水質汚染などが顕在化した。高度成長の暗黒面として注目された。四日市公害(大気汚染),熊本および新潟水俣病(有機水銀,水質汚染),富山イタイイタイ病(カドミウム,水質汚染)は4大公害病裁判と言われている。1970年にはヘドロや光化学スモッグなどの公害用語が一般に広まっている。
このようにエコロジーの問題が1970年前から顕在化された。
高度成長の説明があるサイト チャート式中学公民ページ見本 数研出版
http://www.chart.co.jp/junior_chart/naiyou/15112_10%5E11.pdf
佐々田 道子(1991) 冷蔵庫 平凡社世界大百科事典 CD-ROM版 平凡社
1974〜1985 安定成長期
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1977 円高不況
1979 第2次オイルショック,東京サミット
1981 日米自動車摩擦
1983 東京ディズニーランド開園
1985 円高容認のプラザ合意
1986〜1991 バブル経済
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1988 消費税導入。(1987年売上税が失敗したため言葉を換えている)
1989 ベルリンの壁崩壊。平均株価が過去最高の3万8915円に
1992〜2001 失われた10年
- 1992 平均株価3月2万円割れ,8月1万5千円割れ
1994 民間給与初の減少
1995 阪神大震災。
1996 自分をほめたい。
1997 消費税率 3%から5%に,金融危機
1999 日銀0金利政策
井関利明(1993) 消費革命(consumption revolution) 森岡清美ほか編『新社会学辞典』有斐閣
山口昌伴(1999) 三種の神器? 日本生活学会編『生活学事典』TBSブリタニカ
p455
大量生産・大量消費
大量消費に関連する耐久財とくに電気製品の所有率を見てみよう。
1963年から1964年に減少しているのはデータの取り方が変わったためである。1963年までは人口5万人以上都市データであるため普及率が高くなっている。
3種の神器は1970年までにほぼ9割の家庭が所有している。3Cのカラーテレビも1973年には8割が所有している。しかも急速に普及している。3Cのカー,クーラーの普及はそれに比べると時間がかかっている。だが,現在は8割を超えている。また,クーラーなどは1世帯に複数台もっているので,単純に1世帯当たりに何台あるかというのでは2台程度の所有となっている。乗用車,ビデオも1世帯当たりだと1台以上持っている。カラーテレビは1世帯2台以上持っている。電気掃除機の普及率が90%を超えるのは1975年である。
消費革命以外の時期と比較すると消費革命の時期の電気製品の普及が急速であったことがわかる。
中国では'80年代にまず、自転車、ミシン、腕時計(ラジオ)が「三大件(3種の神器)」として、次いでテレビ、洗濯機、冷蔵庫が「新三大件」と言われたというのはちょっと面白い(ここのサイト)。
日本でもミシンは三種の神器の前から普及していた。1957年で62%。当時既製服よりも手作りの服のほうが普通であった。
内閣府 経済社会総合研究所 消費動向調査(四半期)
http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/menu.html#shohi 普及率 xls ファイル
日中韓の耐久消費財の普及
http://www.ne.jp/asahi/hamamatsu/seiji/cfes/100econ/120doms/123cons/1231prv/drblposs/drblposs.html
耐久消費財の普及−−日本1960年頃、韓国1980年頃、中国都市部1990年頃−(特にこの図が日中韓の比較にいい)
日本はテレビ,洗濯機,冷蔵庫の順,韓国はテレビ,冷蔵庫,洗濯機の順,中国は洗濯機,テレビ,冷蔵庫の順に立ち上がっている。韓国は日本より寒冷地のはずだが,冷蔵庫が洗濯機より早い。これはキムチを重視しているためだろうか。
所得倍増計画
国民所得倍増計画は、今後10年以内に国民総生産26兆円(33年度価格)に到達することを目標とする。日本のGNPは1950年から1960年は9.1%の伸び,1960年から1970年までは11.3%伸びている。
'61年〜'70年の10年間に国民総生産を13兆円から26兆円に、一人当たりの国民所得も20万8000円と倍増し、西ドイツに次ぐ水準に達するという構想。 反論や批判もあったが、実質GNPの年平均成長率10・9%('59〜'73年)という高度成長
1960年〜1970年として見ると名目でも実質でも国民総生産(GNP)は2倍以上を到達している。1961年と1970年を比較しても実質、名目とも2倍以上である。
成長率を見ていると次のようになっている。1960年から1970年の間の成長率はバブル期よりも遙かに高い。
参考のため敗戦前の成長率も見てみよう。第1次世界大戦中および満州事変以降が高くなっている。特に日中戦争開始(蘆溝橋事件)前後は6%を超えていて,高度成長期に次ぐ成長率である。
大川一司・高松信清・山本有造(1974)長期経済統計1国民所得 東洋経済新報社経済,第40表,p247より作図
一人当たりではなく,勤労者の実収入によって見てみよう。
総務省統計局統計センター 家計調査 長期時系列データ
http://www.stat.go.jp/data/kakei/longtime/18kakei.htm
18−2 1世帯当たり年平均1か月間の支出−勤労者世帯
(昭和38年〜平成13年)(全国)
(昭和23年〜37年)(全都市)
財団法人矢野恒太記念館編『数字でみる日本の100年』第4版 国勢社 2000
大都市部人口集中
大都市部への人口集中を東京都、大阪府、愛知県への集中度によって大雑把に見てみよう。
戦前においても都市部に集中化していたことがわかる。戦後地方に分散し、再度都市部に集中した。1960年に戦前の水準にもどり、1970年まで増加しているが、その後減少している。
農業人口の推移
戦前においても農業人口の比率は減少していた。敗戦とともに農業人口の比率が増え、その後急速に減少している。だいたい15年で半減して行っている。戦前よりも減少の仕方が急であることがわかる。
核家族化
戦後核家族化が進行したとも言われる。データを見てみよう。戦前のデータが一つしかないが、戦前と比較してもそれほど核家族化が進行したとはいえない。消費革命のころ微増した程度である。
結局どうだったの
消費革命は高度成長と耐久消費財の急速な普及および農業人口の減少に特徴づけられる。核家族化は言われているほどのものでない。また,大都市部への集中も起こっているが,日本においては戦前にすでに経験したものである。
おそらくもっとも重要なのは,ここでは検討していないフォーディズムの浸透であろう。従業員を「いかさず殺さず」から「消費者へ」仕立て上げることである。それは給与水準を引き上げることと労働時間の短縮への流れとなる。そして,電化製品の普及により家事労働からの解放とパートタイムによる収入の増加。このように考えると,戦前の成長は生産性は上がっているが,それだけでは産業革命レベルの工業化にすぎない。消費革命が起こるには,三種の神器のような耐久消費財の普及が必須であろう。
また,フォーディズムの浸透には農業人口の比率がある程度以下である必要もあるだろう。つまり,第2次産業,第3次産業人口がある程度ないとフォーディズムの流れは作りにくい。農業人口が多いときは高度成長しても産業革命レベル,ある程度以下になると消費革命への動きへと流れる。中国では,特区を作って,農村部をある程度切り離して,消費革命への向かったのであろう。
村上龍氏は生活の写真を見て,1970年代の「高度成長の終焉」にはっきりとした境があることを見いだしている(失われた10年Q:L002 4の最後 http://jmm.cogen.co.jp/jmmarchive/t002004.html)。
そして,バブルの時期には,生産を上げるよりも,投資することが重要な段階に到達している。
消費革命の段階での問題は,物質主義への傾斜であろう。はっきりと物質主義になると幸福ではない。さらに,バブルにすすむと,「物質主義」のものと「拝金主義」のものが巷にあふれることになる。階級としてとらえれば「物質主義」「拝金主義」は一部の層にとどまる可能性があるが,日本のようにみんな一緒(中流)だと考えると,達成できないもの(成り上がり中を含む)は「物質主義」「拝金主義」へと多くがなびくことになる。村上龍氏は生活から高度成長の終焉を一つの区切りとしてとらえているが,価値観の大きな転換がバブルによって起こったのではないかと想像する。しかし,調査では「心」が大切だという人が増えている。
物質主義と幸福の関係
Kasser, T. (2002). The high price of materialism. MIT.
中国都市部の消費革命は注目されている。
7.消費革命───多層的な発展をとげる中国市場
Chinese hope for consumer revolution
学問的にとらえると
The ‘Consumer Revolution’ 社会学講義
消費の長い目の変遷
三浦 展 格差の是正から自己肯定の消費へ−カルチャースタディーズ
Kagawa University Faculty of Economics Keizo Hori(home page)
e-mail hori@ec.kagawa-u.ac.jp