SPSS ときど記(21〜30)

SPSSを使っていてトラぶったところや変な出力や裏技表技の便利な使い方を中心に書き留めてみる。何回話題があるかわからですが,時々書きます。(Keizo Hori
最終更新日: (2000/5/11から)

(1)〜(10) (11)〜(20) ときど記(メニュー)へ (31)〜(40)

  1. SPSS ときど記(30) 2000/ 5/27 分散分析 反復測定・被験者内要因
  2. SPSS ときど記(29) 2000/ 5/26 分散分析 その後の多重比較検定→事後の多重比較
  3. SPSS ときど記(28) 2000/ 5/25 スクリプト スクリプトの良いところ
  4. SPSS ときど記(27) 2000/ 5/23 スクリプト データを直接参照できない
  5. SPSS ときど記(26) 2000/ 5/22 スクリプト 変数タイプVarType()が常に0になる
  6. SPSS ときど記(25) 2000/ 5/18 syntax,matrix など エラーを起こした行 が分からない(解決編)
  7. SPSS ときど記(24) 2000/ 5/17 Graph 塗りつぶし,重ね図
  8. SPSS ときど記(23) 2000/ 5/15 スクリプト マクロを走らせる
  9. SPSS ときど記(22) 2000/ 5/13 分散分析 効果量 η2
  10. SPSS ときど記(21) 2000/ 5/11 分散分析 観測検定力

SPSS ときど記(30) 2000/ 5/27

分散分析 反復測定・被験者内要因

反復測定(測度)(repeated measures)の分散分析はこの20年に何度も技術革新が起こった分野だ。

(1)ランダム効果(乱塊法)の一つの計画である,randomized block design,split-block design として捉えて分析する。これが古典的な反復測度の分散分析の仕方。
(2)自由度を調整して分析。
(3)MANOVAで分析。
(4)SASのproc mixed で分析する。
(5)自分でモデルを組みSEM(または共分散構造分析)で分析する。

SPSSでは(1),(2),(3)の分析ができる。
SPSSのunianova では(1)の処理ができる。昔のANOVAではこれはできなかった。ということで一応BASEがあれば反復測度も分析できるようになった。

(反復測度分散分析については千野直仁さん「
反復測定(測度)分散分析/基礎と応用」に詳しい解説があります。)

しかし,この分析が意味をもつのは,球状性(いろんな訳がある。SPSSでは球面性)の仮定が満たされているときです。しかし,実際のデータではたいていこの仮定を満たしていません。そして,これを破っているとき有意差が生じやすくなっています。このあたりのお話は,千野直仁さん「反復測定デザインデータの分散分析による F-比の歪みの可能性」「2.1.5 節 球形検定の問題点とF比の歪みへの対処法」を参照してください。

それに対応する方法として,まず,(2)自由度を調整する方法です。これはSPSSのGLM 反復測定で処理することができます。これは同時に(3)も出力します。GLM のない場合はMANOVA を使います。

この(2),(3)どちらを使うかについては千野さんが「2.2 節 反復測定 ANOVA か、(G)MANOVA かの選択の問題 」において解説しています。Maxwell and Delaney(1990)も比較に関して重要な文献です。

(4)は分布や相関または共分散の構造を指定できる。unstructured がMANOVAの結果と対応するらしいので,その他の構造を指定すればMANOVAよりいい結果が生じる可能性がある。これらに付いてはSASのユーザによる本を参照(Littell et al, 1996; SAS, 1996)。

(5)柔軟な指定が出来る点では共分散構造分析もそうです。共分散構造分析による反復測定計画分散分析の例は豊田(2000)にあります。

ハードな仮定をおかないなら,(1)(2)(3)で対応していてもいいでしょう。しかし,(1)は前提が満たされるときなのでほとんど使えないでしょう。といっても,実際には(1)が使われることが多い。また,どの方法がいいかは確定していないので,今後の動向が注目されるが,統計パッケージが必要な処理になっている。

なお,被験者内要因within subject,反復測度,反復測定などいろいろな言われかたがある。

《引用文献》
千野直仁 http://www.aichi-gakuin.ac.jp/~chino/anova/contents.html

Littell,R.C., Milliken, G.A., Stroup, W.W., and Wolfinger, R.D. (1996). SAS system for mixed models. SAS Institute Inc.

Maxwell,S.E. and Delaney,H.D.(1990). Designing experiments and analyzing data: A model comparison perspective. Wadsworth.

SAS(1996). Advanced general linear models with an emphasis on mixed models. SAS Institute Inc.

SPSS (1999). SPSS advanced models 10.0J. SPSS inc.(日本語マニュアル)

豊田秀樹 (2000). 共分散構造分析[応用編]−構造方程式モデリング− 朝倉書店

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SPSS ときど記(29) 2000/ 5/26

分散分析 その後の多重比較検定→事後の多重比較

SPSSを使っていて気持ち悪く思うものに「その後」という使い方である。post hoc の訳語である。post hoc がラテン語であるから,口語訳はどうかと思うのだがいかがでしょうか。しかも統計学の本のなかでは,「事後比較」と索引につけているものもいくつもある(池田,1989;森・吉田など)。芝・南風原(1990)は事後検定と書いてある。

タイトルにつかっている元の英語は post hoc multiple comparisons のようである。確定できないのは,対応する英語版がないので英語版のほかの部分から引っ張ってきた。事後多重比較とか事後の多重比較で十分であろう。もし,一元分散分析のpost hoc pairwise multiple comparisons and range tests であるなら,また違ってくる。

訳語が一貫しないことは以前に指摘(
)しているが,なぜか「その後」は一貫して使っているようだ。

いずれにしても「その後」はやめてほしい。

事前比較 データを見る前に計画されている比較
事後比較 データを見た後で行う比較

事前比較と事後比較は分散分析にとってキーになっている概念である。また,多重比較のfamilywiseに第1種の過誤をコントロールするというの考え方も分散分析のキーの考え方である。このあたり,分散分析の基本思想と考えてもいいだろう。だからといってその思想を疑ってはいけないということはないのだ。

《引用文献》
池田央編『統計ガイドブック』新曜社 1989
森敏昭・吉田寿夫編著『心理学のためのデータ解析テクニカルブック』北大路書房 1990
芝祐順・南風原朝和『行動科学における統計解析法』東京大学出版会 1990

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SPSS ときど記(28) 2000/ 5/25

スクリプト スクリプトの良いところ

スクリプトは計算能力ではなくて制御能力にその真価がある。マクロは同じ様な課題をもっていたが,DOS時代のものであった。計算能力は主として行列言語それとシンタックスになる。

スクリプトはWindowsらしく,メニューで操作ができるところが本来の良さなのだろう。ところが,スクリプトの良さはもっと別のところにもある。シンタックスやマクロや行列言語はとりあえず,シンタックス窓にコマンドを入れてそれを選んで走らせなければならない。細かいことをいうといろいろあるが,ここではあまり気にしない。その点,スクリプトなら,スクリプトを選んだだけで走る。

ユーティリティ→スクリプトの実行→スクリプトを選択する

そんなタイプとして,
データエディタにある2元クロス表→コード+頻度生成→クロス表分析スクリプト を作りました。

サンプルデータもつけましたので是非走らせて見てください。ちょっと出力が多くなって見づらいという欠点がありますが,こういう入力でいいのだとわかるとSPSSの見方も変わると思います。なお,出力に調整済み残差を含めていますが,この絶対値が2以上ならそのセルは特徴的だと捉えてください。それ以下なら差がないものと見ます。この表から見えるものと違ってきます。データは川上ほか(1999,p75 表 2-7)のものです。単なる仮説検証なら,5%水準で有意な連関なしです。しかし,ここでは探索的なものですから,それにもめげず調査済み残差を見てみましょう。川上さんたちの読み込みとは違ったものになります。調整済み残差が計算されるというのはSPSSのいいところです。

データを直接参照できない」という問題がなければ,2つのタイプを作らず自動的にタイプを判定して実行することができたのにおしい。

《引用文献》
川上和久+電通メディア社会プロジェクト『情報イノベーター』講談社現代新書 1999
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SPSS ときど記(27) 2000/ 5/23

スクリプト データを直接参照できない

スクリプトからデータ文書にあるデータを直接参照できないようです。(
SPSS ときど記(46)解決編参照)しょうがないから,summarize で出力してから読んでみるということをしました。すると,今度はドラフトビューでは参照できない。行列言語を使っているので,write で書き出すと8桁した有効でないようです。あ,参照したいのが文字列なので,wrtite /field =1 to 15/format=a15 とかすると,同じものが2つ出力されてしまった。いったいなんなんだ。

そういえば,summarize のほうで何桁有効かチェックしていない。ま,いいか。

本なんかにある表形式のデータをSPSSの頻度データにするためのスクリプトでした。昔はbegin data end data. で挟み込むのをカラム指定で読み込んでいたのだけど,最近はやっぱり表計算ソフト的に入力したくなった。

行列言語も実際にスクリプトで動きました。
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SPSS ときど記(26) 2000/ 5/22

スクリプト 変数タイプVarType()が常に0になる

スクリプト言語の例にならってつぎのスクリプトを走らせたところ,
Dim objSpssInfo As ISpssInfo
Dim strVarName As String, intType As Integer
Set objSpssInfo = objSpssApp.SpssInfo

Dim Count As Integer, I As Integer
Count = objSpssInfo.NumVariables '変数の数を数える
For I = 0 To Count - 1
strVarName = objSpssInfo.VariableAt(i)
MsgBox strVarName
intType = objSpssInfo.VarType(i) 'SpssDataString
MsgBox CStr(intType)
Next
変数のタイプにかかわらず intType の結果は常に0となった。VariableAt(i)に対応するMsgBox strVarNameのほうはちゃんと変数名を表示する。なお,文字型に対応するSpssDataStringをobjSpssInfo.VarType(i)の代わりにいれると,MsgBox CStr(intType)は1を表示する。

本当は数値型のとき0,文字型のとき1,その他のときに2になるはず。

バグですね。

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SPSS ときど記(25) 2000/ 5/18

syntax,matrix など エラーを起こした行 が分からない(解決編)

SPSS ときど記(14) 2000/ 5/ 2 syntax,matrix など エラーを起こした行 が分からない に書いたことの解答を自分で見つけた。

結果を「ビュアー」に出力している場合と「ドラフトビューアー」に出力している場合とで少し違ってくる。

(1)共通
(a)set printback=listing.を実行する。

この場合,途中でset printback=none.を実行されると無効になるので注意が必要。

「ビュアー」にsyntax とともにエラーメッセージやワーニングが出力される。

(b)ジャーナル(ファイル)に記録をとる。
SPSSはspss.jnl というファイルにシンタックスなど実行を記録にとります。通常こういうのをログといいます(SASではたしかログといっていた)。指定の方法は。

メニューバーの編集→オプション→全般→セッションジャーナル にチェックをいれる。
ついでに「参照」をクリックし,spssのディレクトリ(フォルダ)を指定する。

既定値ではWindowsのテンポラリディレクトリです。テンポラリディレクトリは通常は見に行かないものを置くものだと思うが,SPSSのいつのバージョンからかここを既定値にするようになった。(ほかのアプリでもここに一時保存ファイルを置くようになって,ちと困った)。やはりSPSSのディレクトリに置いておく方がわかりやすいでしょう。

(c)「ドラフトビュアー」を使っている場合のみ有効
メニューバーの編集→オプション→ドラフトビュアー→ログの中にコマンドを表示 にチェックを入れる

う〜む。こうやって見ると,前には知っていたのに忘れてしまっていたものがあるね。既定値が変わったためにわからなくなっているのもあるようだ。

さらに「ドラフトビュアー」のあるオプションのチェックをはずすと,シンタックスで処理した結果を残さない。すごいオプションを付けているねSPSSは。

前のSPSS ときど記(18) 2000/ 5/ 6 マニュアル PDF ファイルのspssadv.pdf,spsspro.pdfがない の指摘も後で分かったのだが,この2つのファイルはspssbase.pdf の中に入っていた。すでに,気づいたことは付け加えている。

まあ,こういう勘違いもあるので,気づいたら連絡ください。よろしく。

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SPSS ときど記(24) 2000/ 5/17

Graph 塗りつぶし,重ね図

DistPlot.sbs を改造して,χ2検定における第1種の過誤と第2種の過誤,αとβを図示するシンタックスを作っていたところ,graph に2つ問題があった。

1つは赤の塗りつぶしたときに端の方が黒くなってしまう。spssの図をjpegに保存したときに黒が目立つようになる。これは仕方ないのかもしれない。しかし,spssの中で塗りつぶしの一部が黒くなるのはいただけない。なんとかしてほしい。

もう一つは仕様と言われてしまえばそれまでですが,重ね図を作ることができない。line(simple) なら,何本も線を引くことができる。しかし,line(simple) に line(area) (塗りつぶし)を重ねて書くことができない。もちろん,line 以外の bar(棒グラフ)などを重ねることもできない。インターラクティブグラフ(igraph) の解説も見てみたがこちらも異なるタイプのグラフの重ね図ができないようだ。出来るのなら教えて。

結局,H0の5%水準の領域,H1のβの領域を図示する別々の図をつくった。しかし,スクリプト化する最初のダイアログボックスのところをまだ解決していない。

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SPSS ときど記(23) 2000/ 5/15

スクリプト マクロを走らせる

SPSSのCD-ROMについているスクリプト DistPlot.SBS (
www.spss.com にもある)を見ているとスクリプトの中にマクロを組み込んでいる。ということは,行列言語も組み込み可能のようですね。これができると,数量化3類などもメニューによる操作が可能になる。また,basicには制御言語が豊富なので,複雑な処理が可能になるかもしれない。もっともいろんな言語を入り乱れて使うとデバッグが大変そうだ。

上のスクリプトは分布図を描くものですが,かなりシンプルです。excel では,長谷川(1998)が分布図に関していろいろ図示できるようにしています。第1種の誤りと第2種の誤りを本文ではわかりやすく解説しているのに,図示するプログラムは作ってませんね。あ,excel は非心分布関数をサポートしてなかったか。

《引用文献》
長谷川勝也(1998).『EXcel で学ぶ統計学入門 第1巻確率・統計編』技術評論社

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SPSS ときど記(22) 2000/ 5/13

分散分析 効果量 η2

分散分析における効果量の考え方は様々である。まったく魑魅魍魎の世界だ。メタ分析(meta-analysis) の分野では,標準化平均差効果量指標(standardized mean diffrences effect-size indicator)つまり平均値の差を標準偏差で割った指標と,相関効果量指標(correlational effect-size indicators)の2つのタイプの指標がよく使われている。それぞれのタイプの指標を使うメタ分析法をまとめた本がでた。Cortina and Nouri(2000) と Rosenthal et al.(2000)である。前者はGlass の d(Δ)を,factorial anova, ANCOVA, Repeated measures designs の各タイプの計画においてF値と自由度から計算する方法を示している。Rosenthal et al. は例によって, 4つのタイプの相関効果量r(contrast, altering, effect size, BESD) の計算の仕方を示している。Cortina and Nouriとは比較するとANCOVA はないが,多重比較が付け加わっている。

SPSSの出しているη2はそういうものとは違う範疇の説明された分散効果量指標(explained variance effect-size indicator) である。SPSSの出力の表では「イータの2乗」と書かれているが,実際は「偏イータの 2 乗値」(partial eta squared, partial η2) を出力している。ヘルプの「GLM - 一変量分散分析のオプション」やsyntax guide には明記してある。manovaでは本来のη2を出力する(とspss-l でSPSS社の人が明言していた)。

ところが,用語解説(「被験者間効果の検定」をダブルクリックし,さらに「イータの2乗」右クリックすると出てくる)では次のように解説している。

イータ2乗は,従属変数の全変動の,独立変数の変動によって説明される部分の比と解釈されます。これは,グループ間平方和と全平方和との比です。
おお,これは。違ってます。これではη2になります。
表1 一元分散分析 被験者間効果の検定
細胞分裂
ソースタイプ III 平方和自由度平均平方F 値有意確率イータの2乗非心度パラメータ観測検定力
修正モデル317.580479.3957.122.006.74028.488.938
Intercept7326.15017326.150657.172.000.985657.1721.000
ステージ317.580479.3957.122.006.74028.488.938
誤差111.4801011.148
総和7755.21015
修正総和429.06014
1.00アルファ = .05 を使用して計算された
2.00R2乗 = .740 (調整済みR2乗 = .636)

上の表は一元分散分析の例。「ステージ」というのが要因となっています。この場合は,
「ステージ」(平方和)317.58/「修正総和」(平方和)429.06=0.7402
あってるじゃん。

いやそうでなくて,二元以上のときに違ってくるのです。

表2 二元分散分析 被験者間効果の検定
細胞分裂
ソースタイプ III 平方和自由度平均平方F 値有意確率イータの2乗非心度パラメータ観測検定力
修正モデル201.150367.0503.447.028.24410.342.719
切片18157.563118157.563933.554.000.967933.5541.000
種類184.5071184.5079.486.004.2299.486.848
性別3.80213.802.196.661.006.196.071
種類 * 性別12.840112.840.660.423.020.660.124
誤差622.3983219.450
総和18981.11036
修正総和823.54735
1.00アルファ = .05 を使用して計算された
2.00R2乗 = .244 (調整済みR2乗 = .173)

(a)「種類(平方和)」÷「修正総和(平方和)」=η2
184.507/823.547=0.2240394294

(b)「種類(平方和)」÷(「誤差(平方和)」+「種類(平方和)」)=偏η2
184.507/(622.398+184.507)=0.2286601273

と(b)の計算式で求めた値が偏η2であり,表2の値と一致する。
(a)の計算式で求めた値がη2です。

一元分散分析の場合,「効果の平方和」+「誤差の平方和」=「全体の平方和」となるので,偏η2=η2。という訳で,SPSSの用語の解説が間違っていることがわかる。SPSSはあっちこっちに間違いがあるね。実は「用語の解説」の間違いは,これを書くために一応チェックを入れたら間違っていたのね。

一元分散分析の場合,η2(=偏η2)が註2のR2と一致していることにも注意。η2は重相関係数と一致する。また,2元分散でもη2の合計は重相関係数と一致する。偏η2はそうはならない。

まず素直さから言えばη2である。純粋に説明された分散を表している。ところが,この場合,2元以上の場合,分散を多く説明している変数がある場合,それに引きずられて他の効果は小さな値しか示さない。そこで,偏相関係数と同じ偏η2が意味をもつ。Cohen(1973)は偏η2に意味があることを説いた論文である。

ところで,η2を使うか偏η2を使うか,はたまたそれ以外のω2,偏ω2,ε2を使うかいろいろ議論のあるところだ。
統計学者は一般にη2や偏η2についてあまり説明をしない。ω2や偏ω2のほうを薦めている(例えばMaxwell et al.(1981))。ω2よりも偏ω2のほうがいいということを具体的研究から示しているのが Keren and Lewis(1979)。

偏ε2は少数派であるが,Jaccard(1997)がこれを採用している。

ω2(偏ω2を含む)派はε2に偏ω2と等価なものがないと考えているような節がある。ε2はもともと偏ε2と考えられていたりする。このあたりを考えだすと長くなる。

ところで,こういう効果量の考えそのものを否定するものもいる。また,心理学の実験はすべてランダム効果ANOVAなのに固定効果ANOVAとして処理しているという批判もある。それらについては,Fern and Monroe(1996), Jaccard(1998)に詳しい。

Jaccard氏は1998年の本に書けなかった,contrast analysis for unequal n, repeated measure designs, and covariates を SPSS GLM でどう分析するか示した文書があるので請求すれば利用できますよといっている。さっそく申し込んだところ,すぐ送ってくれるということだ。それが着いたらまたなにか書くかもしれない。

おっと言い忘れたが,ここで述べていることはすべて固定効果の分散分析。反復測度がある場合や,ランダム効果の場合はちょっと様子が違ってくる。反復測度やランダム効果の場合も偏η2は素直でいいのです。まあ,そのあたりがSPSSが偏η2を採用した理由かもしれない。しかし,素直さならη2のほうがもっと素直なんですが。

なお,ω2やε2は不偏推定とまでいかないけど,η2の偏りの少ない推定量になってます。η2とω2,ε2の関係は,重相関係数に対する調整済み重相関係数にあたる。このあたりが統計学の本ではη2を採用しない理由になっているのでしょう。不偏推定量といっていい式はFowler(1985)が示しています。

註:相関比(correlation ratio)といったときには,η2の場合とηのときとあるので注意が必要。

註2:分散分析に使ったデータは
SPSSジャパンのWWW上の『SPSSによる分散分析と多重比較の手順』用のサンプルデータにあるものです。

《追加: 2000/06/10》
manova の SEQUENTIAL sums of squaresの場合,η2だけでなくω2も出力されるそうです。UNIQUE sums of squares の場合は偏η2だけ。

《引用文献》
Cohen, J.(1973). Eta-squared and partial eta-squared in fixed factor ANOVA designs. Educational and Psychological Measurement, 33, 107-112.

Cortina, J.M. and Nouri,H. (2000). Effect size for ANOVA designs. Sage.

Fern,E.F. and Monroe, K.B. (1996). Effect size estimates: Issues and problems in interpretation. Journal of Consumer Research, 23, 89-105.

Fowler, R.L. (1985). Point estimates and confidence intervals in measures of association. Psychological Bulletin, 98, 160-165.

Jaccard, J. (1998). Interaction effects in factorial analysis of variance. Sage.

Keren,G., and Lewis, C.(1979). Partial omega squared for ANOVA designs. Educational and Psychological Measurement, 39, 119-128.

Maxwell, S.E. et al.(1981). Measures of strength of association. Journal of Applied Psychology, 66, 525-534.

Rosenthal,R., Rosnow,R.L. and Rubin,D.B. (2000). Contrasts and effects size in behavioral research. Cambridge University Press.

A New View of Statistics EFFECT STATISTICS

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SPSS ときど記(21) 2000/ 5/11

分散分析 観測検定力

SPSS は分散分析やmanova,GLM において観測検定力を出力する。例えば,
分析→一般線形モデル→一変量 これで, unianova が指定されている。(release 10, 9以下でもオプションの advanced models があれば glm が指定されるので同じである)

その中で,
オプション→表示の「観測検定力」をチェックする。

これで「観測検定力」(observed power) が出力される。

ところで,この観測検定力は見てもほとんど意味がないのである。つまり,0.05水準で有意差があれば高くなり,有意でなければ低くなる。いわゆる「検定力 statistical power」とは意味合いが違ってきている。

事前にある効果量であるα水準において,あるサンプル数において,ある分散分析のデザインにおいて検定力がいくらかというときには意味がある。また,上のうちサンプル数を未知にしておいて,ある検定力のときにサンプル数はいくら必要かという設問のときの検定力も意味がある。あるいは,希ではあるが,どれだけの効果量のときに検出可能かという設問をたてるときにも関係する。

ところが,すでに結果がでたものに関して検出力がいくらかという設問は意味がない。α水準で有意かどうかと関係しているだけである。そして,SPSSの5%水準の検定力を出しているので5%水準で有意かどうかと関係していて,その補充の意味もない。

だから,検定結果を見て,「有意にならなかったのは検定力が不足しているんじゃない」ということに対する答えに,この数値を使うことはできない。確かに,サンプル数を多くすればいずれ有意差を得ることができるでしょう。しかし,それはサンプル数を増やせばいいというものではないはずだ。そこで効果量(effect size) はどれくらいなら意味のある差と言えるのかという考えが必要となる。SPSSの出力する効果量はそこでも問題である。

なお,この件は南風原さんの一連の発言を読めば,理解が深まるでしょう。

南風原朝和 
[fpr 118] Observed Power  [fpr 582] Observed Power  [fpr 583] Observed Power

これ以外にも発言があるので,fpr のスレッドを見てください。

Len Thomas and Charles J. Krebs(1997). A Review of Statistical Power Analysis Software

サンプル数を求めるためのプログラムはSPSSではSPSS Sample Power というのがあったがもうなくなったのかな。G*Power はフリーのソフトです。ここの解説もいいですが,観測検定力についてはハナから無視しています。

なお,私のつくっているシンタックスやマクロもサンプル数を求めるものです。

Steiger and Fouladi(1997)が観測検定力の信頼区間によって,その検定がはじめから検定力がなかったのかどうかチェックする方法を提案していますが,これも上の南風原さんのコメントからすると無効ではないかと思います。この信頼区間を求めるプログラムはここにあります。私のつくったものです。オイオイ。


《引用文献》
Steiger, J.H. and Fouladi, R.T. (1997). Noncentrality interval estimation and the evaluation of statistical models. in L.L.Harlow, S.A.Mulaik, and J.H.Steiger(eds.) What if there were no siginficance tests? Lawrence Erlbaum.p221-257.

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