小売り店と消費者

堀 啓造(香川大学経済学部)

1991年だったでしょうか、四国新聞に連載したものです。少し改変したところもあります。
counter: (1999/4/18からの累積) 最終更新日:
衝動買い
お店が怖い
女子大学生のファッション店店員の利用
女子学生の利用ファッション店とファッション観
買物類型
買物が好き
大学生のファッション購買法

衝動買いを楽しむ

衝動買い

 衝動買いはいけないことだという価値観がある。香川県によくあるムダ遣いはいけないという価値観と強く結びついている。衝動買いをすると、後悔や失敗をすると考え、買い物に行く時は必要な金額しか持っていかないようにしたりしている。

 しかし、仕事を持っている主婦や、小さい子供のいる主婦のようにじっくり買い物をする時間がない人もいる。そんな人には時間節約になる。また、その時決断できないで、あとで買おうとしたら売り切れていたということもよくあることで、機会損失を防ぐ衝動買いもある。ストレス解消の衝動買いもある。これらは衝動買いを認める考え方である。

 衝動買いは何かのためにするのだろうか。本来の衝動買いは買い物の醍醐味を味わあせてくれるものである。「この商品が私を呼んでいる」「買ってほんとうにうれしい」という感情を呼びおこしてくれる。そして気に入ってよく使うことになる。

 後悔する衝動買いは何か言い訳のついた衝動買いである。安いから買ってもいいや、店員が勧めるから買っておこうとして失敗の確率を高める。

 わくわくする商品、コレと感じるディスプレイ、すごいんだとわかる説明に出会う店で買い物をしたい。

お店が怖い

 お店を怖いと思っている人が結構多い。なぜ怖いのだろうか?その根底には店に入ると買わないといけないという観念がある。店に入ると買わないといけない、しかし気に入ったものがない、または何を買ったらいいのかがわからない。だけど店員が寄ってきて次々商品を出してきてどんどん勧める。ひどい場合は店員が二、三人で取り囲んで勧める。断ればいいじゃないかと思うだろうが、「店に入ると買うものだ」という先入観があり断れない。パニックに陥って「これでいいや」と思って買う。しかし、結局、気に入らないで使わない。「ムダ遣いをしてはいけない」という価値観から痛みが発する。また、不本意ながら使っていると、いやな買い物をしたという経験が強化される。そうして無理に買わされたと思い込み、店に入るのが怖くなる。

 善意で店の人が応対しても怖い、善意でない場合はなおさら怖い。「買わなくてはいけない」を店員に投影して「店の人が押しつける」という恐怖心をもつ場合も多い。

 このように怖がる人は買い物のアマチュアである。そのような人を相手にする店(デパートを含む)は駅周辺によくあり、一つは放っておくタイプ、もう一つは押しつけるタイプである。


女子大学生のファッション店店員の利用

 女子大学生はファッションが好きである。香川大学と横浜国立大学の女子大学生のファッション店に対する考え方をDC(デザイナーズ&キャラクター)ブランドが盛んだった一九八八年秋に調査したところ、高松と横浜ではっきり違っているところがあった。

 横浜では自分のファッションに自信をもっていて、自分で決めようとする。店員に相談することは希である。聞いても他の色があるかなど在庫管理的なことを聞く。

 高松ではファッションについて学習中だという意識をもっている層がDC店利用者を中心にあり、店員(マヌカン)のアドバイスを真剣に受けとめている。自分に似合うかどうか、どのような組み合わせ方があるかなどアドバイスを求めている。

 さらに、店員が客のもっているものをよく知っていてあの服にはこれが似合ってますよというレベルのアドバイスをしたり、あなたのために仕入れましたよという電話を入れたりしている場合がある。店員が個人的ファッションアドバイザーにもなっているのである。

 このような店員とのかかわりは、OLや主婦においても密で、店員の移動とともに店をかえる場合もある。高松では、それほど店員に信頼をおいている。

女子大学生の利用ファッション店とファッション観

 利用するファッション店のタイプによって、ファッションに対する考え方が違っている。前回と同じ調査の高松の部分から紹介する。店舗のタイプを通常のファッション店((1))、DC店((2))、DC店より高価品を中心に扱っている店((3))の三つに分けた。

 (1)の店は、ドアがなく、「店員」がいて、照明が蛍光灯であり、価格も利用しやすい。このタイプの店の利用者はクラブ活動など他にすることがあってファッションにお金をかけたくなかったり、金銭的に合理的な考え方をもってそれを実践している層である。

 (2)の利用者は二つの層に分かれている。一つはファッションのことを知りたいという層である。ファッションが最重要事項になっていて、ハウスマヌカンに色々と教えてもらい、自分に何が似合うかを学習している。もう一つの層はみんなと同じになるようにしている。これはDCの考えと矛盾するが、友達に馬鹿にされたくないのである。

 (3)にはインポートの店などがある。(3)の利用者はファッションが人生の中心ではないが、その場にあった気に入った服を着て何かをするのが好きである。いい服を着て充実した時間を過ごしたい。することが多いのも特徴となっている。

買物類型

 買物のタイプ分けについて紹介する。

 古くから商品のタイプ分けがある。最寄品、買回品、専門品の三タイプ、もう一つ衝動品を加える場合もある。それぞれ、近くの店で買う、あちこち見比べて買う、距離をいとわず特定の店で買う、衝動的に買うなど買い方を示している。

 最寄品は砂糖のように製品差がなくリスクの少ない関心の薄い商品である。この場合、交通の便・駐車場・ワンストップショッピングなどの利便性が重要である。信号を渡る回数が少ない店、進入路から入りやすい駐車場のある店などを無意識に選択している場合が多い。

 買回品の代表として電気製品がある。東京秋葉原、大阪日本橋のような電気製品街があるように、あちこち見比べて買うのが普通である。買回品は、(高価格、製品差が大、長期間使用、場所を取るなどの)リスクのある商品である。冷蔵庫のように買う時だけその商品に関心があり、買ってしまうとただ単に使っているだけで特に愛着はない。

 ところで、最近では、電気製品を一店しか見ないで買ってしまう人が多い。どれでも一緒だという信仰が広がり、金銭的余裕ができ、時間的余裕がなくなってきたため、買回行動が減った。

 専門品という考え方はなじみが薄いが、DCブームは専門品があることを示した。一部の人たちはその店の商品または特定のブランドしか買わない。同様の傾向が化粧品、皮製品、貴金属などにも見られる(これをブランド志向と非難する人もいる)。専門品では、一部の人がその商品に強い関心をもち、特定の銘柄や店員の専門知識、客同士のの触れ合いを求めてその店まで足を運ぶ。店に特別たくさんの種類の商品を置いている必要はない。その店のセンスで絞り込み、置いてある商品について詳しく説明でき、的確なアドバイスを与えることができることが重要である。店の評判は口コミで伝わり自然と同じセンスの人が利用するようになる。店の多くは中心街周辺にある。

 商品によって買い方が固定しているのではない。同じファッション品においても、大衆店を中心にあちこち比較して買う層、特定の店・特定のブランドを買う層、最寄りの店・スーパーで買う層がある。つまり、商品による区別ではなく、その商品に対するその個人の買い方による区別である。

 専門品的に売る店ができ、専門品的に買う人が増え、店と客との交流が進んで専門店になる。そしてわくわくする衝動買いを楽しむことができる街になる。(造)

 また、値段が場所によって違うということに怒りを感じる人がいる。上手な買物にはいい物を安く買うということが入っていると思うが、値段が違うこと自体を異常事態と感じる傾向が一部にある。

買物が好き

 買物が好きかどうかによって買物方法が変わってくると考えられる。

 そこで、志度町の調査(1989年)において次のような質問をした。「買物は楽しい/買物するはめんどうだ」「買物は時間をかけてじっくりする/買物は短時間ですませる」「買物は自分のセンスを発揮する場である/買物は義務だからする」「いろんな商品から選びたい/商品を選ぶのは簡単にしたい」それぞれ自分の考えに近いほうを選んでもらった。前者のほうが買物が好きなタイプの答である。

 すべてを買物好きの方向に答えた人は女性32%、男性14%である。すべてを買物嫌いの方向に答えたのは女性では8%しかいないが男性では26%いる。

 女性は8割が買物を楽しいと考えているのに対し、男性は4割強しか楽しいと思っていない。特に30以上の男性は6割程度がめんどうくさいと思っている。

 なるべくいろいろなものの中から選択したいというのが女性は77%、男性は55%である。年齢が上がるにつれ簡単に済ませたいが多くなる。60歳以上なら女性でも3割、男性は5割弱もいる。

 つまり、多くの商品を揃えればいいのではなく、顧客にに合わせて少なくしたり、多くしたりする必要がある。一方でよく商品の揃った店、一方でコンビニエンスストアのように商品を絞りこんだ店が求められる。

大学生のファッション購買法

 ファッション品を買うときの選択法について大学生男女を対象に調査した(一九九〇年調査)。

(1)自分独自のファッションスタイルを確立していて、自分なりのファッションセンスによってコーディネイトするタイプ、
(2)雑誌などいろんな情報を集めて、自分のセンスで決めるタイプ、
(3)人のアドバイスに従って購入するタイプ、
(4)アドバイスを求めないが、結局人のまねをしてしまうタイプ、
(5)ファッションには無関心なタイプ
の五つにタイプ分けをした。

 (1)と(2)はファッションに高い関心を示す、(3)と(4)は中程度の関心を示す。(5)は低い関心しかなく他と意識行動が全く違う。

 (2)は(1)に比べて、「流行遅れになりたくない」という意識が強くある点が異なっている。しかし、オピニオンリーダー度、イノベーター度においては両者同じ程度である。

 (3)は(4)に比べ店員を排斥しない、店員を積極的に利用し、量販店をそれほど愛好しない、高価格、イノベーター度が高い、オピニオンリーダー度が高いという点で顕著な差がある。(4)ははっきりと量販店志向を示している。関心の程度は同じだが、(3)と(4)の間には、大きな断層があった。(3)の意識・行動は(4)より(2)に近く、背伸びをしている。


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