セルフ・モニタリング尺度
堀 啓造(香川大学経済学部)
2001/08/04
counter: (2003/10/02からの累積)
最終更新日:
- Snyder(1974)が25項目のセルフ・モニタリング尺度(Self-Monitoring Scale)を提案してから、多くの研究を喚起した。その後、尺度そのものに疑問が出された。
- Briggs, Cheek & Buss(1980)によってSnyder の尺度は3因子であることが明らかにされる。
- Gangestad & Snyder(1985)やSnyder & Gangestad(1986) において一般因子があると考えていた。初期解の第1因子がそれを表しているとした。と同時に18項目のセルフモニタリング尺度を提案する。
- Snyder(1987)の本が出版され、一応集大成された。日本語訳は、『カメレオン人間の性格―セルフ・モニタリングの心理学 』乃木坂出版(1998)抄訳かつ理論がかったところは誤訳や省略多数。
- Briggs & Cheek (1988)はセルフモニタリング尺度の第1因子は回転解の第1因子と同じであることをはっきりいう。Briggs & Cheek (1980)においても直交解と斜交解はほとんど同じということをいっているので、きちんと読み込めばわかる。
- Gangestad & Snyder(2000)において、Briggs & Cheek (1988)の事実を受け入れる。
これらの議論を見ていると、とくにSnyder とGangestad の議論の組み立て方はわかりにくい。また、Briggs と Cheek もデータを惜しまずだせばはっきりするものを出し惜しみしている。これはSnyder らと共通だ。例えば、因子負荷量について、Briggs & Cheek(1980, 1988)で3因子ともきちんと出せば、すぐに決着するものを、ある項目についてはださない、2因子だけしかださないという情報開示を惜しんでいる。 Snyderらも同様にきちんとださない。
日本の場合、きちんとだしているので話が見える。
岩淵・田中・中里(1982)のデータは主成分分析をバリマックス回転したものである。このデータSPSSによって再分析して斜交解の直接オブリミン回転(γ=0)すると、因子間相関は次のようになる。
表1 因子間相関
成分相関行列 |
成分 | 1 | 2 | 3 |
1 | 1.00 | 0.27 | 0.08 |
2 | 0.27 | 1.00 | -0.08 |
3 | 0.08 | -0.08 | 1.00 |
回転法: Kaiser の正規化を伴うオブリミン法 |
ほぼ直交しているといってよい。
この論文には素点での相関がでている。
表2 素点の因子間相関
| 外向性 | 他者志向性 | 演技性 |
外向性 | 1 | | |
他者志向性 | 0.44 | 1 | |
演技性 | 0.61 | 0.45 | 1 |
表1と表2ではあまりに相関の大きさが違っている。原論文では .30以上の項目という註はあるが、きちんとそれぞれの因子の項目が列挙されていない。山本(2001, p272)によると
外向性 1, 3, 5, 6, 12, 14, 20, 21, 22, 23
他者志向性 3, 6, 7, 10, 11,12, 15, 16, 17, 19, 24, 25
演技性 5, 6, 8, 19
未使用項目 2, 4, 9
というように3因子の素点を構成している。通常なら重なる項目を避けるであろう。これだけ重なる項目があれば相関が高くなるのは当然である。
岩淵ら(1982)の25項目は訳語としてこなれていないものが多い。それを全面改訳したのが岩淵(1996)にある。気になっていた訳語がほぼ改善された。その結果かどうかわからないが因子の構成も大きく変わっている。
表3 新旧セルモニタリング尺度項目
| 岩淵(1996) | 岩淵・田中・中里(1982) |
1 | 他の人の行動をまねることは苦手だと思う。 | 人の行動をまねるのは苦手だ。 |
2 | 自分の気持ちや考え方や信じていることをそのまま行動にしてしまうことが多い。 | 自分の気持ちや、考え・信じていることを、行動にそのまま表す。 |
3 | 集まりや会合では、他の人の気に入るようなことをしたり言ったりしようとは思わない。 | パーティや集まりで、他の人が気に入るようなことを、言ったりしたりしようとはしない。 |
4 | 確信をもっていることしか主張しない。 | 確信をもっていることしか主張できない。 |
5 | あまり詳しく知らない事でも、とりあえず話をすることができる。 | あまり詳しく知らないトピックでも、即興のスピーチができる。 |
6 | 自分を印象づけたり他の人を楽しませようとして、演技しているところがあると思う。 | 自分を印象づけたり、他の人を楽しませようとして、演技することがある。 |
7 | ある場面でどうしていいのか自信がない時、手がかりとして他の人の行動に注目する。 | いろんな場面でどう振るまっていいかわからないとき、他の人の行動を見てヒントにする。 |
8 | たぶん、いい役者になれるだろうと思う。 | たぶん、良い役者になれるだろう。 |
9 | 映画や本または音楽などを選ぶ時、友人友人に相談することはほとんどない。 | 映画や本・音楽などを選ぶとき、友人のアドバイスをめったに必要としない。 |
10 | 実際に感じているよりも、より大げさに表現してしまうことが時々ある。 | 実際以上に感動しているかのように振るまうことがよくある。 |
11 | 喜劇などをみているとき、一人よりもみんなと一緒の方がよく笑う。 | 喜劇をみているとき、1人よりみんなと一緒の方がよく笑う。 |
12 | グループの中では、めったに注目の的にならない。 | グループの中で、めったに注目の的にならない。 |
13 | 場面や相手が異なれば、全く別の人のようにふるまうことがよくある。 | 状況や相手が異なれば、自分も違うように振るまうことがよくある。 |
14 | 他の人から好意をもたれるようにすることが、それほどうまいとは思わない。 | 他の人に、自分に好意をもたせるのが、特別上手なほうではない。 |
15 | 本当は楽しくなくても、楽しそうにふるまうことがよくある。 | 本当は楽しくなくても、楽しそうに振るまうことがよくある。 |
16 | 私はいつも見かけのままの人間とは限らない。 | 私は、常に見かけのままの人間というわけでない。 |
17 | 他の人を喜ばせたり気に入ってもらうために、自分の意見ややり方を変えたりしない。 | 人を喜ばせたり、人に気に入ってもらおうとして、自分の意見や振るまい方を変えたりしない。 |
18 | 私には、人を楽しませようとするところがあると思う。 | 自分は、エンターテイナーであると思ったことがある。 |
19 | うまくやっていったり好かれるようにするために、他の人が自分に望んでいることをするところがある。 | 仲良くやっていったり、好かれたりするために、他の人が自分に望んでいることをする方だ。 |
20 | これまでに、ジェスチャーや即席の芝居のようなゲームで、うまくできたことがない。 | これまでに、ジェスチャーや即興の芝居のようなゲームで、うまくできたためしがない。 |
21 | いろいろな人や場面に合わせて、自分の行動を変えていくのは苦手である。 | いろいろな人や状況にあわせて、自分の行動を変えていくのは苦手だ。 |
22 | 集まりでは、冗談を言ったり話しを進めていくのを他の人に任せておく方だ。 | パーティでは、冗談をいったり、話したりするのは、他の人に任せて、自分は黙っている方だ。 |
23 | 人前ではきまりが悪くて思うように自分を出すことができない。 | 人前ではきまりが悪くて思うように自分をだせない。 |
24 | もし必要であると思えば、相手の目を見ながらまじめな顔をして、嘘をつくことができる。 | よかれと思えば、相手の目を見て、真面目な顔をしながら、うそをつくことができる。 |
25 | 本当は嫌いな相手でも、表面的にはうまく付き合っていけると思う。 | 本当はきらいな相手でも表面的にはうまく付き合っていける。 |
表4 岩淵(1996)の再分析(直接オブリミン解)(0.40以上をマーク)
パターン行列 | |
| 成分 | | |
| 1 | 2 | 3 |
V22 | 0.80 | -0.12 | 0.04 | 集まりでは、冗談を言ったり話しを進めていくのを他の人に任せておく方だ。 | V22 |
V23 | 0.77 | -0.28 | -0.04 | 人前ではきまりが悪くて思うように自分を出すことができない。 | V23 |
V12 | 0.71 | -0.11 | -0.01 | グループの中では、めったに注目の的にならない。 | V12 |
V20 | 0.62 | 0.00 | 0.02 | これまでに、ジェスチャーや即席の芝居のようなゲームで、うまくできたことがない。 | V20 |
V8 | 0.53 | 0.27 | -0.10 | たぶん、いい役者になれるだろうと思う。 | V8 |
V5 | 0.48 | 0.23 | -0.04 | あまり詳しく知らない事でも、とりあえず話をすることができる。 | V5 |
V18 | 0.44 | 0.38 | 0.09 | 私には、人を楽しませようとするところがあると思う。 | V18 |
V21 | 0.40 | 0.15 | 0.33 | いろいろな人や場面に合わせて、自分の行動を変えていくのは苦手である。 | V21 |
V16 | -0.12 | 0.63 | -0.17 | 私はいつも見かけのままの人間とは限らない。 | V16 |
V13 | -0.03 | 0.63 | -0.04 | 場面や相手が異なれば、全く別の人のようにふるまうことがよくある。 | V13 |
V6 | 0.28 | 0.61 | 0.08 | 自分を印象づけたり他の人を楽しませようとして、演技しているところがあると思う。 | V6 |
V15 | -0.06 | 0.54 | 0.22 | 本当は楽しくなくても、楽しそうにふるまうことがよくある。 | V15 |
V10 | 0.29 | 0.53 | -0.19 | 実際に感じているよりも、より大げさに表現してしまうことが時々ある。 | V10 |
V19 | 0.10 | 0.48 | 0.31 | うまくやっていったり好かれるようにするために、他の人が自分に望んでいることをするところがある。 | V19 |
V7 | -0.16 | 0.47 | 0.04 | ある場面でどうしていいのか自信がない時、手がかりとして他の人の行動に注目する。 | V7 |
V24 | 0.11 | 0.42 | -0.18 | もし必要であると思えば、相手の目を見ながらまじめな顔をして、嘘をつくことができる。 | V24 |
V11 | -0.08 | 0.28 | 0.20 | 喜劇などをみているとき、一人よりもみんなと一緒の方がよく笑う。 | V11 |
V3 | -0.02 | 0.06 | 0.63 | 集まりや会合では、他の人の気に入るようなことをしたり言ったりしようとは思わない。 | V3 |
V17 | -0.08 | 0.22 | 0.61 | 他の人を喜ばせたり気に入ってもらうために、自分の意見ややり方を変えたりしない。 | V17 |
V2 | -0.29 | -0.16 | 0.51 | 自分の気持ちや考え方や信じていることをそのまま行動にしてしまうことが多い。 | V2 |
V9 | -0.03 | -0.07 | 0.49 | 映画や本または音楽などを選ぶ時、友人友人に相談することはほとんどない。 | V9 |
V14 | 0.43 | -0.02 | 0.44 | 他の人から好意をもたれるようにすることが、それほどうまいとは思わない。 | V14 |
>
V1 | 0.21 | 0.08 | 0.36 | 他の人の行動をまねることは苦手だと思う。 | V1 |
V4 | 0.13 | -0.09 | 0.27 | 確信をもっていることしか主張しない。 | V4 |
V25 | 0.10 | 0.22 | 0.22 | 本当は嫌いな相手でも、表面的にはうまく付き合っていけると思う。 | V25 |
回転法: Kaiser の正規化を伴うオブリミン法 |
a 8 回の反復で回転が収束しました。 |
斜交回転しても岩淵のバリマックス回転解とほぼ同じである。
第1主成分を岩淵は演技性と名付けているが、外向性+演技性であり、18項目の分析においてBriggs & Cheek(1988)が名付けたPublic Performing(PP)そのものである。
第2主成分はそのまま「他者志向性」。第3主成分を岩淵は「自己主張性」と名付けている。これはSnyderらが18項目にしたときには因子として抽出されなかった項目である。
25項目の主成分分析であるにも関わらず、18項目の主成分分析の2主成分がそのままでている。
表5の因子間相関行列から、小さな一般因子があることが伺えるが、この程度であれば直交解で問題ない。
表5 岩淵(1996)の因子間相関
成分相関行列 |
成分 | 1 | 2 | 3 |
1 | 1.00 | 0.17 | 0.11 |
2 | 0.17 | 1.00 | 0.11 |
3 | 0.11 | 0.11 | 1.00 |
回転法: Kaiser の正規化を伴うオブリミン法 |
Lennox & Wolf(1984)の改訂セルフ・モニタリング尺度の場合、石原・水野(1992)の2因子間の相関は0.450であり、岩淵(1996)の2因子間の相関は0.262であった。石原・水野も主成分分析後バリマックス回転している。
岩淵(1996)における固有値は回転後の因子負荷量の2乗和ではなく、初期解の固有値である。石原・水野のTable 1. の Pct of Var(%) の値も初期解のものとなっている。この間違いはポピュラーなのかそれとも仕様となっているのか?
また、石原・水野の結果は2主成分間の相関の高さからも高次因子があることを示している。岩淵の結果は直交解でもいいが、石原・水野の結果をふまえれば高次因子があることを示しているととってもいいだろう。
Briggs, S. R. & Cheek, J. M. (1986). The role of factor analysis in the development and evaluation of personality scales.Journal of Personality, 54, 106-148.
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Gangestad, S. & Snyder, M. (1985). "To carve nature at its joints": On the existence of discrete classes in personality.
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Gangestad, S.W., and Snyder, M. (1991). Taxonomic analysis redux: Some considerations for testing a latent class model. Journal of Personality and Social Psychogogy, 61, 141-146.
Gangestad, S.W., and Snyder, M. (2000). Self-monitoring: Appraisal and reappraisal. Psychological Bulletin. 126(4), 530-555.
石原俊一・水野邦夫(1992)改訂セルフ・モニタリング尺度の検討 心理学研究, 63, 47-50.
岩淵千明(1996). 自己表現とパーソナリティ in 大渕憲一・堀毛一也(編)『パーソナリティと対人行動』誠信書房 53-73.
岩淵千明・田中国夫・中里浩明 (1982). セルフ・モニタリング尺度に関する研究 心理学研究, 53, 54-57.
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Snyder, M. (1987). Public appearances/public realities: The psychology of self-monitoring. (New York: Freeman) (斉藤勇監訳)(1998)『カメレオン人間の性格―セルフ・モニタリングの心理学 』乃木坂出版
Snyder, M. & Gangestad, S. (1986). On the nature of self-monitoring: Matters of assessment, matters of validity.
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山本真理子編(2001). 『心理測度尺度集T−人間の内面を探る<自己・個人内家庭>−』 サイエンス社
Meehl, P. E. (1996). MAXCOV pseudotaxonicity: Reply to Miller. American Psychologist, 51, 1184 1186.
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