数量化3類SPSSマクロ化の試み                 堀 啓造(香川大学経済学部) 日本心理学会第60回大会 数理・統計1-6 p417 1.問題  昭和30年代に数量化3類が開発(林,1993)されて以来多く利用されている。 数量化3類は3つのタイプを処理する。(1)2つの項目間のクロス集計表(分 割表)(2)被験者×2項目の反応パターンデータ(3)被験者×多項目の反応パタ ーンデータ(多重対応分析)(柳井,1994)。数量化3類の本で説明されている のは主として(2)(3)である。調査研究においては(3)の多重対応分析型の処理が 多い。本稿では(3)のみを扱う。 数量化3類は、対応分析(Greenacre,1993)、双対尺度法(多肢選択データタイプ) (西里,1982)、HOMALS(Gifi,1990)と同一の問題を扱っている。日本においてSAS やSPSSは数量化3類を特別にサポートしていたが、それもなくなってきた。SAS では対応分析、SPSSではHOMALSがその役割を担っている。4つの分析法はカテゴ リの数量化や指標においてそれぞれの工夫をしている。 分析法の過渡期でもあり、各指標の意味・関係を明らかにするために、これらの 指標を出力可能なSPSSの行列言語を使用した数量化3類マクロを作成する。 2.指標 2.1.各アイテムカテゴリー×軸 (1)カテゴリ数量(重みづけ係数)(駒澤型;HOMALS,対応分析の主座標型)   出力はHOMALS、対応分析の主座標型 (2)負荷量(主成分分析との比較のため) (3)相関の2乗(対応分析) 2.2.各アイテムカテゴリー (1)quality(対応分析) (2)絶対的寄与率(対応分析) (3)inertia (4)求めた軸までの寄与率 2.3.アイテム(変数) (1)範囲(数量化3類) (2)判別測度(HOMALS)=相関の2乗(西里) 2.4.軸 (1)寄与率(対応分析;Greenacre;岩坪,1987) (2)信頼性α係数(西里) (3)χ2検定(西里) 2.5.サンプル数量(主座標は出力しない) (1)標準座標(数量化3類,HOMALS) 3.カテゴリ数量算出法 算出法はいくつかある。駒澤(1987)は数量化3類のもとの定義に忠実といえる が、やや煩瑣である。ここでは柳井・高根(1985:p183-186)の算出法に基づいて 計算する。 手順(欠損値のない場合として算出) (1)欠損値ケースのチェック (2)データのデザイン行列展開(=M) (3)M'DYM(=B)を求める。DYは各サンプルの反応した数を対角行列にし たもの。 (4)一般固有値問題 Bx=λDxx を解く。               Dxは各カテゴリの反応数の対角行列。 (5)標準座標=固有ベクトル/sqrt(アイテム数*サンプル数)   主座標=標準座標*sqrt(固有値)(出力する) 駒澤型数量=標準座標*inv(sqrt(固有値)) 各固有値は軸に対応するもの。 4.結果 このマクロの計算は行列演算なので、総カテゴリー数とサンプル数によって計 算できる量の制約を受ける。  DELL製IBM互換機(Pentium 166,拡張記憶 32メガバイト)、SPSS for Windows 6.1.3日本語版を使用した。 (1)SPSSの既定値の場合。160総カテゴリ×405サンプルまたは、30総カテゴリ ×1837サンプルまで処理できた。その次のアイテムは拒否された。 (2)SET WORKSPACE 14000の場合(作業領域を14Mに設定)。 217総カテゴリー×3738サンプルでも処理した。所要時間185秒。これだけの 処理ができれば実用上十分であろう。 同じデータをHOMALSで処理した場合(収束精度は既定値)、5.5秒であった。 5.考察 SPSSマクロ化の利点の第一は数量化3類のようなプログラムでも認知的負 荷の少ない状態で手軽に組むことができることである。第2の利点は、行列演 算なのでいくつかのパラメータや手法の比較が手軽にできることである。例え ば、対応分析の手法と数量化3類の手法の比較、また、アイテムカテゴリ数量 について3種類のタイプを簡単に作成し比較することができる。そのほか、S PSSのバージョンアップにもそのまま対応できる。SPSSのマクロの欠点 は、エラー処理が弱いことと出力表現が貧弱な点である。対応分析は多重対応 分析においてはアイテムの指標がないという問題がある。数量化3類はほとん どカテゴリ数量だけを判断基準にしているが他の指標も必要である。 [引用文献] Gifi,A.(1990)Nonlinear multivariate analysis. Wiley. Greenacre,M.J.(1993)Correspondence analysis in practice. Academic Press. 林知己夫(1993) 数量化−理論と方法 朝倉書店 岩坪秀一(1987) 数量化法の基礎 朝倉書店 駒澤勉(1986) 数量化理論とデータ処理 朝倉書店 西里静彦(1982) 質的データの数量化 朝倉書店 Nishisato,S.(1994)Elements of dual scaling. LEA. 柳井晴夫(1994)多変量データ解析法 朝倉書店 柳井晴夫・高根芳雄(1985)多変量解析法新版 朝倉書店