目次
第1部 はじめに
第1章 たまねぎ型モデルで文化を見よう
第2部 国民文化
第2章 平等? 不平等?
第3章 私・われわれ・やつら
第4章 男性・女性・人間
第5章 違うということは、危険なことである
第6章 文化と組織モデル−ピラミッド・機械・市場・家族
第7章 美徳と真理
第3部 組織文化
第8章 超優良企業への道は一つではない−流行から経営の道具へ
第4部 共生への道
第9章 異文化との出会い
第10章 多文化世界で共にいきるために
集団主義、個人主義の文脈で引用されることがよくある文献の日本語訳であるが、訳本に言及されるのを見たことがない。50カ国+3地域のIBM社員の意識調査結果によるものである。日本語訳では調査の基礎的部分が除かれているのか、いつのデータかなど素人向けでも必要な項目がかけている。1983年に発表されたデータに基づいているようである(p20 (10))。
4つの基本的な問題領域
(1)能力の格差(power distance)(小←→大)
(2)集団主義(collectivism) 対 個人主義(individualism)
(3)女性らしさ(femininity) 対 男性らしさ(masculinity)
(4)不確実性の回避(uncertainty avoidance)(弱←→強)
最近になった発見された5番目の次元
(5)長期志向(long-term orientation) 対 短期志向(short-term orientation)
もとの40カ国の質問(1980)での32の項目×40カ国の因子分析の結果から尺度化したようである。
(5)を除くそれぞれの簡単な定義とその尺度化につかった項目を挙げておく。さらにその尺度の1位と最下位(53位)、日本、米国の順位とその得点をリストする。
(1)能力の格差
人々の間に不平等が存在するという事実にどのように対応するか。上司と部下を隔てている情緒的距離。
3項目から計算
1 「あなたの経験から考えて、次の問題はどのくらい起こっていると思いますか−社員が管理職に反対を表明することをしりごみする。」(「1 非常にしばしば起こる」から「5 まったく起こらない」までの5段階の平均)
2 上司が実際に行っている意思決定のスタイルについての部下のとらえ方(4つのスタイルと「どれにも該当しない」の5つの選択肢のなかから、独裁的スタイルまたは温情的なスタイルを選択した社員のパーセンテージ)
3 上司の意思決定スタイルとして部下が好ましいと思っているスタイル(相談的スタイル以外のもの。独裁的スタイル、温情的スタイル、多数決に任せるスタイルを選好した社員のパーセンテージ)
1位 マレーシア(104) 33位 日本(54) 38位 米国(40) 53位 オーストラリア(11)
(2)個人主義 vs 集団主義
個人主義を特徴とする社会−個人と個人の結びつきはゆるやかである。人はそれぞれ、自分自身と肉親の面倒をみればよい。
集団主義を特徴とする社会−人は生まれた時から、メンバー同士の結びつきの強い内集団に統合される。内集団に忠誠を誓うかぎり、人はその集団から生涯にわたって保護される。
項目
「仕事の目標」の14項目の一部
「あなたの理想とする仕事にとって重要な条件は何でしょうか?あなたが現在行っている仕事にとって重要な条件は何でしょうか?あなたが現在行っている仕事において、それらの条件がどの程度満足されているかということではありません。あなたは、次にあげる条件をどのくらい重視しますか?」
「1きわめて重視する」から「5ほとんどまったく重視しない」
個人主義の極
1 個人の時間−自分や家族の生活にふり向ける時間的余裕が十分にある
2 自由−かなり自由に自分の考えで仕事ができる
3 やりがい−やりがいがあり達成感の得られる仕事である
集団主義の極
4 訓練−訓練(技能向上や新技術の修得のため)の機会が多い
5 作業環境−作業環境が良い(風通しが良く、照明が十分で作業空間が適当であるなど)
6 技能の発揮−自分の技能や能力を十分に発揮できる
個人主義は因子得点によって求めた。
1位 米国(91) 22位 日本(46) 53位 グアテマラ(6)
(3)男性らしさ−女性らしさ
個人主義 vs 集団主義と同じ質問項目で特に次の項目が関係する。
「男性らしさ」の極
1 給与−高い給与を得る機会がある
2 承認−良い仕事をした時、十分に認められる
3 昇進−昇進の機会がある
4 やりがい−やりがいがあり、達成感の得られる仕事である
「女性らしさ」の極
5 上司−仕事のうえで、直属の上司と良い関係が持てる
6 協力−お互いにうまく協力しあえる人と一緒に働く
7 居住地−自分と家族にとって望ましい地域に住む
8 雇用の保障−希望する限りその会社に勤務することができる
因子得点を使用
1位 日本(95) 15位 米国(62) 53位 スウェーデン(5)
(4)不確実性回避
ある文化の成員が不確実な状況や未知の状況に対して脅威を感じる程度。
1「あなたは仕事の上で、神経質になったり、緊張したりすることがありますか?」
「1いつもそのように感じる」から「5まったくそのように感じない」
2「たとえ会社に非常に大きな利益をもたらすと思っても、会社の規則は破るべきでない」という意見に対する賛成の程度(5段階)「規則志向」
3 長期勤続を望んでいる社員の割合(%)。(選択肢型 5年以上)
1位 ギリシャ(112) 7位 日本(92) 43位 米国(46) 53位 シンガポール(8)
(2)の個人主義 vs 集団主義の個人主義の極はいいとしても集団主義がこれでいいのかな?表面的妥当性は低い。
(3)の男性らしさ−女性らしさという命名は何を男らしい、女らしいというのは文化によって違うであろうから問題がある。競争型−共生型というところか? 三隅二不二氏のPM理論のPM(performance-maintenance)のようですね。
(4)の不確実性回避は「表面的妥当性」に問題がありそうだ。この質問と「不確実性回避」との関係が明瞭でない。しかも、ここでの説明で頻繁に使っている旧西ドイツは中程度(29位、65点)であり、ときどき説明に使っているフランスはそれよりずっと上位(10位 86点)である。不確実性回避の強い文化では「違うことは危険なことである」となり、不確実性回避の弱い文化では「違うということは興味をそそる」、中程度のオランダ(35位 53点)では(このニュアンスは理解できないが)「違うということはこっけいである」といっている(p125)。この尺度は指摘されているが、マズローの安全への欲求に関係している。
(1)能力の格差 | 1位 マレーシア(104)
33位 日本(54)
38位 米国(40)
53位 オーストラリア(11)
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(2)個人主義 vs 集団主義 | 1位 米国(91)
22位 日本(46)
53位 グアテマラ(6)
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(3)男性らしさ−女性らしさ | 1位 日本(95)
15位 米国(62)
53位 スウェーデン(5)
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(4)不確実性回避 | 1位 ギリシャ(112)
7位 日本(92)
43位 米国(46)
53位 シンガポール(8)
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さて、日本は(1)(2)では中程度でありそれほど特徴的ではないということになる。(3)男性らしい(4)不確実性回避がはなはだしい。米国対日本をみると、(4)不確実性回避と(2)個人主義・集団主義が特徴的となる。
それぞれの特徴のもつ強みを次のようにいっている。日本の場合、(3)(4)が特徴的なので極度に大量生産に有利になっていることになる。
文化的特徴のもつ強み(p259)
権力格差 | 小さい | 大きい
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責任感が強い | 規律が重視される
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集団主義 vs 個人主義 | 集団主義的 | 個人主義的
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帰属意識が強い | 人事に流動性がある
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女性らしさ vs 男性らしさ | 女性らしさが強い | 男性らしさが強い
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個人的サービス
注文販売
農業
生物化学 | 大量生産
効率
重工業
原料化学
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不確実性回避傾向 | 弱い | 強い
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根本的な新機軸 | 正確
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この本では、各尺度と一般的な規範、家庭、学校、職場の類型との関係を論じている。一応統計処理に基づいたものだそうだ。尺度に難があるので、参考とか仮説生成的な意味が強いが、こんなことが関係するのかというようなところもある。見ていると面白い。
女性らしさの強い社会 | 男性らしさの強い社会
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社会において支配的な価値観は、他者に配慮して、控えめにふるまうことである | 社会において支配的な価値観は、物質的な成功を遂げ、進歩することである
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人間そのものと温かな人間関係が大切にされている | 金銭と物質が大切にされている
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弱者へのいたわりがある | 強者への共感がある
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平均的学生であればいい | もっとも優れた学生でなくてはならない
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学校で失敗することは、たいしたことではない | 学校で失敗することは、致命的である
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教師は親しみやすさが求められる | 教師は優れた才能を求められている
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生きるために働く | 働くために生きる
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管理者は直感を大切にし、意見の一致点を求めようとする | 管理職は決断力と自己主張を求められている
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平等と連帯感と職業生活の質が重視される | 公正さと同僚の間での競争と業績が重視される
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対立は妥協と交渉によって解決される | 対立は徹底的な交戦によって解決する
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(一部略)
男性らしさの強い社会は日本と一致する点は多い。これを見ても日本は物質主義であることを再確認する。ところで、このような価値観が短絡的に「いじめ」と結びつくかというと、一番女性らしい社会のスウェーデンでもいじめが問題となっていることからもそれだけではないということがわかる。もっともどの程度のいじめで問題になっているかはよくわからない。
不確実性の回避が弱い | 不確実性の回避が強い
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確実でないということは、人生の自然な営みであり、毎日それを受け入れている | 人生に絶えずつきまとう不確実性は、脅威であり、取り除かれねばならない
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ストレスは低く、幸福感が漂っている | ストレスが高く、不安感が漂っている
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怒りや感情を見せてはならない | 怒りや感情を発散させても良い時間や場所が決まっている
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あいまいな状況であっても、危険についてよくわからなくても、平気である | 危険についてよく分かっている場合は受け入れるが、あいまいな状況であったり、危険についてよくわからない場合は恐れる
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違うということは興味をそそる | 違うということは危険である
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学生は自由な学習の場を好み、討論に関心がある | 学生は構造化された学習の場を好み、正解にこだわる
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教師が「私にはわからない」と言うこともある | 教師たるものは、何についても答えられると考えられている
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絶対に必要な規則以外は必要ない | たとえ絶対に守られることがないとわかっていても、規則を求める気持ちがある
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(一部)
こういう観点で見ると日本の在り方は確かに「不確実性回避」の強い社会だ。日本人がそうだというよりも、武士階級の価値観が明治時代に蔓延してしまったというように思える。そういえば「男性らしさ」の強さも武士階級の価値観であろう。階級があるなかでの単一価値観が、社会全体の主たる価値観になってしまったのではストレスがたまる人たちが多くであるはずだ。逃げどころがなくなってしまう。
不確実性回避の強さが市民の力と関係するという。不確実性回避のスコアが低い国ほど市民の力が大きい。また、不確実性回避の強い国では国家当局による決定にどの程度影響を与えることができるかについて、市民は悲観的である。また、不確実性回避の強い国は上級公務員にしめる法学部の出身者の割合が高い。このあたりも示唆に富んでいる。
尺度そのものが問題がありそうなので、全体を確実なものと考えるのは危険であるが、きわめて示唆に富む内容がある。まったくの思いつき発言のレベルではないので、一読の価値はある。
1998.8.30記