Books 1998/10


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中村保男『日英類義語表現辞典』三省堂(1998) 英語間・日本語間類義語



中村保男『日英類義語表現辞典』三省堂(1998.9.1) \1,600
項目例
action/behavior
almost/nearly/hardly
area/region
character/personality(1) person,nature
character/personality(2) individuality, reputation, credit, identity
civility/教養 :civil, culture


この本では第1部は項目例のように英語間および英語日本語間の類義語の使い分けの説明をしている。第2部では類義語に関する理論的説明がある。最初に「類語」と「類義語」の区別がされている。「類語」は「関連語」であり、シソーラスで扱う。この方面の日本語の辞書としては「角川類語新辞典」があげている。ところが日本語では類義語のいい辞書がないという。ととと、小学館「使い方のわかる類語例解辞典」(Microsoft/Shogakukan Bookshelf マルチメディア統合辞典にも所収ただしMS Office付録版には入っていない)は類義語の使い分けを中心にしているが、お眼鏡にかなわなかったかな。

この辞典は英語と日本語両方の多義性、類似性と使い分けに配慮している。英和辞典では配慮しない点にも言及しているのもいい。

luck/fortune/chance: fate,destiny,doom
の項(p101-p103)ではchance は「運を天にまかせる」と言いたい時になどに使われるが、「幸運」「不運」とも異なる。というところから、take one's [a] chance が「一か八かやってみる」というところで、「運だめし」を新明解国語辞典を引いてみている。というように日本語と英語をいったりきたりしながら、英語の使い分け、日本語の使い分け、日英語の関係を探っていく。

私がまず興味をもったのは element/factor(component,constituent, ingredient,part) の項である。いくつかの辞書を調べて element と factor の違いを次のように考える。

p40
elementは空間にかかわり、<ある合成物や複合物を構成している基本的因子>を意味する。factor はそれにくらべ時間にかかわる語で、<ある結果をもたらす要因>を表す。

空間的と時間的または「構成関係的」と「因果関係的」という区別の立て方は憶えやすく、訳だってくれる。・・・このように「要素」と訳せるelementにたいし、factorは<原因となる要素>ということで「要因」と訳されることが多いわけだ。

中略 (Marriam Webster's Dictionary of Synonyms(1984)の説明として) 「factorconstituent, element, component の代わりに使われうるが、それは constituent などが何かの原因となる力を働かせて、それ(constituent)が部分であるところの全体として、特定の結果を生み出させたり、一定の方向に向かわせたりすることを、可能ならしめる場合にのみ代用できる。」
すなわち、先の図で言うと、たとえば「国境紛争」や「人種問題」などの4因子がひとつの全体原因と化して、戦争勃発という特定の結果を生み出した、ということになる。

ということで factor analysis が潜在因子を求めるというだけでなくそれ以上のニュアンスがあることがあることがわかる。因子分析に因果関係のニュアンスをかぎつけるのはこのようなことであって、1次因子と2次因子との間に因果関係があるということではない(この2つは構成要素と全体の関係であって因果関係ではない)。

component <合成物や複合体の構成要素>であり、全体から分離可能な一部部分という含みをもつ(p42)。という説明で因子分析(factor analysis)と主成分分析(principle componet analysis)の違いをニュアンスとしてとることができる。英語の命名は言葉の日常的意味に対しても含むところがあるようです。

factor に原因の意味を含むことを「旺文社英和辞典」で指摘があることを挙げている。チェックを入れてみると「研究社新英和辞典6版」(1994)でもはっきり指摘している。
p640 factor 名 C 1(ある現象・結果を生ずる)要因、要素、原因
また、小学館プログレッシブ英和中辞典は element,component, constituent,ingredient factorの使い分けが element の項目にあった。中村の説明はこのプログレッシブ英和辞典(1988)と基本的に同じであるが、きちんと例をあげているのでわかりやすいことはいうまでもない。「研究社リーダース・プラス」ばかり引いている問題が見えた。

そういえば、「新明解国語辞典第5版」
いんし【因子】(1)ある結果を成り立たせる元になる要素「遺伝−」(2)[数学で]「因数」の改まった言い方。【−分析】いろいろ違った方面から計測される事柄を、それぞれの方面の因子を統計して調べること。
因子分析て国語辞典に載る用語だったのだ、しかも第3版(1981)でも載っていた。

能力の分析から始まっている因子分析は「因子」を数学用語として解釈するのではなく、通常の使い方にも注意して理解すべき面もあるようだ。共分散構造分析などがはやりだした昨今その意味するところは大きいだろう。

たとえば、素朴な一般因子+特殊因子のころに分析していたデータと、その後の一般因子を否定しているデータとではどうも分析するテストが違ってきているようだ。あとのほうはcomponent を出そうとしただけではないだろうか? 例えば理科系能力、文科系能力などと言われるときのテストは単に科目をたくさんテストしただけだ。そうすると当然、因果的な関係など望むべきもなく成分を抽出することに主眼がおかれることになる。知能テストは初期の素朴なころと違って因果の要因を割り出すのではなく、いろんなテストの共通成分を求めているだけではないだろうか? 「能力」という考え方に疑問をもたれる以上それもしかたなくなるのか?

自省すると日本語の「要因」「因子」ということばのもともとの意味を感じなくなっていたようで、再確認するきっかけとなった。


1998/10/6記




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